月の光が静かに僕を照らす。優しく、温かいぬくもり。 キミを思い出してしまう。あの頃のキミはまだ幼かった。小さな手で僕を抱き上げ満面の笑みをうかべる。 どこに行ってしまったのだろう。キミに会いたい。キミに触れたい。 探しに行くことも出来ず、僕は空を眺めるのだ。 ─ 僕はテディベアだから。
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既にあのテディベアは最初に拾われたという「唯」のオーソリティを後ろ盾に、あの子の部屋の窓際でふんぞり返っていたんです。 さほどサイズがでかいわけでも、なにがしかの価値があるわけでもないのです。一般的なそれそのものです。 けれど、先だから一番とか大きいから強いとかそんなんじゃないと思います。 だってわたしたちはみんなあの子に拾われた同じ穴のムジナです。 ─ そんなわたしはウサギのぬいぐるみ。
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あの子は優しいんだよ。 薄汚れたおいらも拾ってくれた。 見かけブサイクな、こんやおいらを。 おいらはそれだけでいいんだ。 たくさんあるなかのひとつ、として。 おいらは、ここにいられる。
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私は綺麗なお人形。 お目々とお鼻とお口はないけれど。 白い布きれの小さなお顔に、ボリュウムたっぷりのブロンド、紫のドレスに同じ生地のお帽子。 あの子は、私が綺麗だと教えてくれたわ。 あの子が居るから、私には命が、感情が、意味が生まれたの。 そう、あの子に望まれなければ、存在しないのと同じなのよ…。
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僕はみんなに埋もれる小さな子犬。 小さすぎて見えないけどあの子は僕を見つけてくれた。 それだけで僕は嬉しいんだ。 あの子はもう大きくなってしまって、僕たちを見てくれることはなくなってしまったけれど、僕たちはここでずっと待ってるよ。 また見つけてくれるまで…。
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息を潜めて待つ間も、私たちはあの子の後ろ姿を見続けている。 私の目のボタンは取れちゃっているけれど。 いつか、きっと再び手に取ってくれることを楽しみにしている。 また、私の体を動かして、空想力で劇などこしらえてくれたらうれしいな。私を抱いて眠ってくれるのもぽかぽかする。 私はあの子の劇の悪役をこなしてきたアニメキャラの人形。
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そうあの子はきっと帰ってくる。 ブリキで出来たこの身体を素敵だと彼女は言ってくれた。そう僕はブリキのゼンマイ仕掛けのロボット。 きっと現れる。 この部屋に、また僕らで遊んでくれる彼女が。 ………。 ? ドアが開く音がした。 入ってきたのは彼女じゃなくて。でも可愛い女の子で。 どこか彼女に似ていた。
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…あの子は… もしかして僕らが拾われてから10年以上経っていたのか…? あの子と一緒にいた時間が楽しすぎて…時間が経ったのも気が付かなかった とすると今入ってきたあの女の子は… そうか、あの子の子供か あの子と同じ温かいぬくもりを僕らに与えてくれるかな? その女の子はこちらへ歩いてくる ゆっくり…ゆっくり
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「マコちゃん、だめよ!」 とことこ近づいて来る女の子を制止する鋭い声。 「みんな古くて汚れてるわ」 宣言され、人形たちは絶望しそうになった。 けれども。 「…洗える子は洗って、残りは虫干し。洋服は新調して、ボタンを留めて、それから遊びましょ」 女の子を追ってきた女性は、かつての面差しをはっきりと残す笑顔で、人形たちを夢から目覚めさせた。 「みんな久しぶり! もう一仕事お願いできるかしら?」
- 完 -