あめのちはれ

「きりーつ!礼!」 「おはようございまーす」 緊張感に包まれた、高校二年の春。 わたしの名前は、春風あめ。あめちゃんと、呼ばれてるよ なーんの変化も衝撃もなく、ふつうに二年生にのぼった。はっきりいって小学生のころからわたしは大きく変化したことなど一つもない。背と髪が伸びたくらいだ。 彼氏もできたことないんだよ。彼氏いない歴=年齢。まあ、女子といるほうがいいからいいですけども。 けどやっぱり。

noname

12年前

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周りにカップルが増えるたび、ため息をついてる自分がいる。 自分には興味ないって思っても。 どこかで恋とか、恋愛とかに憧れてる自分がいるんだと思う。 そんなことをぼんやりと考えながら次の授業の音楽室へ移動していると どんっ 誰かにぶつかった。 「ごめん!大丈夫?」 ぶつかった衝撃で尻もちをついてしまった。 顔を上げると、手を差し出してくれていた。 それが、君との出会いだった。

aya

12年前

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ちょっと癖のあるブラウンの髪、長い睫毛。そして、柔らかい微笑み。 何だかさっきあんなことを考えていた所為か目をそらしてしまった。 もしかして、運命…? 彼が友達に呼ばれて行ってしまった後も 彼のふわりとした笑顔が頭から離れない。 ーひいろ、行こうぜー ひいろって名前なんだ。きっとあんなに素敵なひとだから彼女いるんだろうな。 味わったことのないこの気持ち。 何だか不思議な気持ち。

12年前

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「お前ひいろに気があるんじゃね?」 いきなりそんなことを尋ねてきたのは隣の席の石塚君。 ぼんやりとひいろ君のことを考えていた休憩時間のこと。 「なっなにをいきなり 石塚くんって千里眼?」 「千里眼って微妙に違うと思うぞ まあ俺とひいろは友達だからな 一緒にいるとお前の視線を感じるわけ」 「えっ石塚君ひいろ君と友達だったんだ」 「ってお前俺のこと視界に入ってなかったんかい!」 私は両手を合わせた。

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「一生のお願い!私に協力して」 「はー?やだね」 「なんでよー」 やっぱりケチな石塚くんはだめかぁ。そもそも、仲良くなるにはどうすれば。 悩んでいてもいい答えは出なかった。 雨は嫌い。私は昇降口の前でため息を着く。今日は委員会で遅くなったので傘にいれてくれる友達がいない。雨脚は強まる。 「あれ、春風さん」 はっと息を飲んで、振り返る。 「ひ、ひいろくん!」 彼はお日様みたいに笑った。

のの芽

12年前

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こんなに心臓の音を感じたことは人生で初めてだ。 バックンバックン 私、心臓の病を抱えてるのかも。どう考えても動悸が異常だ。 駅までの道を同じ傘の下、並んで歩く。 「天気予報見なかったの? 」 ふいに顔を覗き込まれて「うん 」と頷いた。ひいろ君は楽しそうにいろんな話しをする。 ひいろ君、彼女に誤解されるよ。 ひいろ君、優しいね。 ひいろ君、肩が濡れてるよ。 ひいろ君、私、ひいろ君が好きなんだよ。

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この気持ち、なんとか伝わらないかな…。 ひいろくんに向けてこっそりテレパシーを送る。 “好き、好きです。ひいろくん” 「そういえば春風さんって一年生の時保健委員だったんだよね?」 「え?う、うん。なんで知ってるの?」 ビックリした、急にこっち見るから。通じちゃったかと思った。 「うん、石塚から聞いたんだ。あいつ体育祭の時怪我してね、その時保健委員のやつが手厚く看病してくれたんだー、って」

12年前

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ひいろ君はニヤニヤしてる。石塚くん?覚えているような覚えていないような…いや、覚えてないや汗 看病したの私じゃないのかも。 「さっきもさ、なんか石塚落ち込んでたよ?」 「え、なんで?」 私が首を傾げると、ひいろ君はビックリしたような顔をした。 「あー、落ち込むのも分かるかも」 ひいろ君は苦笑い。 この時ひいろ君が「鈍感」と呟いた事を知らない私は首を傾げていた。

moti

11年前

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数秒の後、私から顔をそらして言った。 「あいつ。春風さんのこと好きなんだよ」 予想外すぎて言葉を失う。 「じゃ、彼女、待たせてるから。ごめんね」 と言うやいなや走り出すひいろくん。私はひとり残され雨に濡れ、冷たい雨は、私の恋の炎を消火した。 「あめちゃん!風邪ひくよ!」 振り向くと、石塚くん、ではなく、女子が数人。 やっぱり女子といるほうがいい。これくらいの雨じゃ友情の炎は消えないもんね。

Jiike

11年前

- 完 -