「我が街、ノーヴェ商店街も町おこしをせにゃならん!」 「町おこしねぇ・・」 「町おこしといってもなにをすればいいのかしら?」 「ほら!今流行りのゆるキャラつーもんを作れば一発じゃろ!」 「ゆるキャラ?」 「ゆるーくなった、動物のことらしいですよ」 「じゃあ、ワシもゆるキャラだぁ、最近入れ歯がゆるゆるしてきてるからなぁ」 「あら、ウフフ、いやだわ」 「....じいちゃん達なにやってんのさ」
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「おお、拓也か〜。今な、町おこしにゆるキャラっつーもんを作ろうかとみんなで言ってたんだ」 「…じいちゃんの入れ歯の何処がゆるキャラなんだよ。何て言うか…こー、見てほのぼのしてて…癒されるのにしないと」 「「「おお〜〜っ‼それで⁉」」」 「え⁇え、あ、あとその土地の名物や特産品をキャラに盛り込むとか…」 「「「なるほど〜‼さすが拓ちゃんだな〜!」」」 「よし!みんな、早速ゆるキャラ作りだ〜!」
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「じいちゃん………」 「どうじゃ拓也!完璧じゃろう!特産物と見ていて癒される要素を盛り込んだぞ!」 「これのどこが癒されるんだよ! 開いたノートにスラリと長い足なんて気持ち悪いよ!!そもそもなんで足!?顔もないのに足先に作るなよ!」 「なんじゃ、顔がいるのか?ではここに…」 「妙な金髪美人の頭つけるのやめてくれ!ってがじいちゃん絵上手いな!!」
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俺は正直、そこまでこの商店街を愛しているわけじゃないんだ。 なのに、なんで俺はこの変なゆるキャラ(?)の着ぐるみに身をつつんでいるのだろうか。 100均の安い金髪のカツラがずるりとずれそうになるのを、手で押さえながらため息をついた。 「拓也、似合うぞぉ~」 俺は結局、じいちゃん子なのだ。じいちゃんのためなら、この商店街に身を捧げようという健気なこの拓也を誰か褒めてください。
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「う〜ん、何がいかんかのぉ 」 じいちゃんは腕組みをして俺を見ていた。俺は小学生にゲシゲシ蹴られていた。 改めてコンセプトからやり直すということになり、なぜか俺も企画会議に参加することになった。 会議ったって、うちの茶の間で井戸端会議だ。 「着る人の意見もソンチョーしねーとなぁ 」と誰かが言ったから俺もお茶をすすり座ってるが、つまり中の人に決定らしい。 「んではぁまず特産物を挙げてみっぺ〜」
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「うちは靴下一筋50年!タイツもあるよウフフ」 「文具。店一番の売れ筋はノートじゃ」 またあの初代ノートタイツキャラに戻りそうで、俺はヒヤヒヤ成行きを見守った。 「豆腐」 「傘」 など皆、自分の商売を上げていく。特産品というより生活品ばかりだ。そして段々とそんな生活品の思い出話で盛り上がる。 皆この商店街で育ったんだな。俺だって…。 「この、生活に寄り添うかんじ、可愛いキャラにできないかな」
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「おー、じゃあ足はタイツ、体はノート、手が豆腐で、傘をさしてる...」 「それを進化させるのはやめて」 俺が制すると、みんなの眉がハの字になった。 「どうすりゃいいんじゃあ」 「もっと抽象的な感じで作るんだよ。寄り添うイメージのものをキャラにすんの!寄り添うといえば?」 「介護」 「じいちゃん...」 「親子とか?」 「そう!そんな感じ!」 「ノーヴェ商店街親子?」 「「「それだ!」」」
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「ふむ、それじゃあ足はタイツ、体はノート、手が豆腐で、傘をさした親子ならどうじゃ!」 「いい加減、そこから離れようよ、じいちゃん。抽象的って言葉聞いてた?」 思わずきつい口調になってしまう。 「じゃ…じゃがこの商店街の親子っていっても…」 「ふつーに人間の着ぐるみでいいと思うよ。あと、この商店街にいる動物とかをモデルにするとか。」 「この商店街にいる動物…うるさい野良猫くらいしかおらんが…」
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「それだよ!」 親子の猫のゆるキャラ。なんて微笑ましい! 「拓也くんのOKじゃ!」 「早速デザインを考えんべ〜」 丸く収まりそうだ、と俺はホッとして帰宅した。 そして、数日後。俺は、商店街の中心にいた。 全身白のタイツ。猫耳と尻尾を付けて、子猫の人形を片手に。 何故あの時油断して帰宅したのか悔やまれるが、もう遅い。 俺は集まった観衆に向かって一礼する。 「商店街のゆるキャラ、ニャーべ君です……」
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