「足立って、足立千佳のことか?」 「はい、呼んでもらえますか?」 休み時間。教室の入り口で駄弁っていたら、後輩の男子が声をかけてきた。 足立とは仲が良い。原が気軽に呼ぶと、足立が来た。 「あ、近藤君。どうしたの?」 「いえ、あの、…せ、先輩、ちょっといいですか?」 近藤君の顔が赤い。 これは…もしかしなくても…。 「…よし後つけよう」 原(バカ)は考えなしに尾行することにした。
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「こちらスナック。ターゲットは西方エリアへと移動中、追跡を続行する」 『…………なぁ、何でこんなことしてんの?』 スマホ越しに親友の前田が、気だるそうに尋ねた。 「いやだって雰囲気って大事じゃん?」 『お前のわざとらしい芝居のことじゃなくて、尾行のことだよ』 「それは勿論、面白そうだから」 『……足立さんに怒られても知らねぇからな』 そんな会話の内に、足立達は西側の体育館裏まで移動していた。
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「こちらスナック。ターゲットの会話が聞こえません」 『もうちょい近づいてみたら?』 「それは厳しい」 原(バカ)はバカなりに頭を悩ましていた。 「すみません、急にこんなとこ連れてきちゃって」 「用ってなに?」 近藤は少し黙ったままだったがゆっくり口を開いた。
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「こちらスナック。ダメです!聞こえません。ターゲットCがターゲットAに何か告げている模様!」 『ちょっと待てスナック。Cって誰だよ、Aは足立さんとして』 「近藤のイニシャルCであります」 『・・・Kだろ、それ』 原(バカ)はリアルに馬鹿だと実感した前田であった。 「こ、こちらスナック!Aの顔が真っ赤、耳まで赤いです!くそ!マジ告られてんのか⁈OKとかすんじゃねーぞ、足立…」 『…原?…おまえ…』
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「ずっと前から」 「付き合ってください」 「お願いします」 会話の端々から拾った言葉から考察する。 「ぜってー告白じゃねぇか!っざけんな!」 『おい、スナック⁉︎』 正直、なんでそうしたかはわからない。 ただ足立が誰かに告白されたと思うと、いいようもない気持ちになって飛び出してしまった。 同時に足立の口が開く。 「うん、いいよ」
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「よくねぇ‼︎」 「原君⁉︎」 「先輩⁉︎」 二人は驚くが関係ない。 「おい、近藤」 原の低い声に近藤君は怯えながら返事をする。 「足立に近寄んな!」 思い切り詰め寄り、怒鳴った。 「待ってよ」 待ったをかけたのはもちろん足立。 「近藤君何も悪い事してないのに酷いよ原君」 「酷いのはお前だろ。人の気も知らないで」 「え?」 何なんだ、この遣る瀬無さは。 「原先輩。僕、告白とかはしてませんよ」
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近藤君は状況が見えているのか冷静に弁明する。ターゲット達はどこか疑われるのを覚悟だった様子だ。原の周りだけバカに空気が重い。 「近藤君はね、今度の春休みにウチの旅館を手伝ってくれる短期バイトに志願してくれたの!」 「バ、バイト…?」 原は間抜けな声を漏らしつつ、騙されるなスナックと自分の勘を鼓舞してみる。 だってそんな公式な話なら別に裏でコソコソする必要は無い。 結論、やっぱ怪しいじゃん。
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不信感たっぷりの目線を感じたのか近藤君は口を開く。 「僕が好きなのは千春先輩ですって。足立...千佳先輩は妹だからプレゼント選ぶの、付き合ってもらおうと思って。ここまで言って信じない、はありえないですよね!」 えっお前足立先輩が好きだったの?ウチの部高跳びのエースじゃん。そりゃ足立に相談するかぁ。 顔を真っ赤にした近藤君が原を睨む。バカでも分かる不穏な空気。冷や汗が止まらない!
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「……で?原君は教室からずっと、コソコソ何をやっていたのかな?」 冷めた笑みを浮かべながら、ずいっ、と足立は原の前に仁王立ちした。 メーデー!メーデー! 『……お前、やらかしたんだろ』 スマホから親友の声が響く。 「ま、まずいことになった……助け──」 『足立さんを疑った罰だな。俺の名前は出すなよ』 健闘を祈る、と言い残して無情にも通話は途切れた。 体育館裏に原の悲鳴が上がるまで、あと少し。
- 完 -