「助けてくれてありがとうございます。お礼に竜宮城まで案内します」 「はあ、どうも」 「さぁ背中に捕まって下さい」 「えっ?海すかムリムリ。俺カナズチですわ」 「手を離さなかったら大丈夫です」 「てか竜宮城までどの位時間かかんの?」 「まぁだいたい10分ぐらいかと」 「いや10分間も息止められないっしょ」 「じゃあ急いで5分はどうですか」 「いや5分もムリ」 「んんなら3分は」 「ギリOK…かな」
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「じゃあ出発します。飛ばしますよ、しっかり捕まっててくださいね」 「分かっ…ガボッ…ゴボグボボボ」 「ちょっと!ちゃんと捕まっててって言ったじゃないですか!」 「ガハっ!!…ハァハァハァムリこれ絶対ムリムリ」 「……」 「ちょその冷んやりした視線やめてくれる?命の恩人殺しかけてその目ないっしょ」 「…あなた、あれですね、絶対玉手箱開けるタイプ」 「は?」 「いやこっちの話。それより、美人いますよ」
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「なぬ?」 「ええ。それはそれはたくさんの美女らがあなたを手厚くおもてなしいたしますでしょう」 「それ、信じていいのか?」 「左様です。さらに美女らを統率する一顧傾城の乙姫様まで!」 「せむかたなし。善は急げだ!」 「浦島っていうより、よこしま太郎だなこいつ」 「なんか言った?」 「独り言ちでございます。では改めてしかとお捕まりくださいますよう」 「うむ」 結局ガボガボ言いながらも竜宮城に到着。
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「アホよこしま太郎」 「んがあ?」 「うるせえ何が『んがあ?』だ」 「手厚いって言ってなかった?」 「え? 何を仰いますの。私、こうして手厚くおもてなしをしているおつもりでしたのに……」 え、何か黒いんだけど。 オーラ肉眼で見えてるけど。 黒く歪んでますけど。 乙姫様はさ、もっとおしとやかだと思ってたよ。 うん、美人。そりゃあ美人よ。勿論。 性格色々と凄かった。 ヤバい。 「覚醒しそう……」
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乙姫様の性格は、凄まじい。 まるで、SMクラブに居るような扱いだ‥。 俺、そんな趣味ないんだけど‥。 暴言、暴力が凄い‥。 いまどき、こんな、美人もいるんだなー。 怖い世の中だ‥。 結婚するんだったら、顔だけじゃダメなんだな‥。 人間は心だろう‥。 そう悟った‥。
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「乙姫様、お茶をお持ち致しました」 そんな時に降って湧いたような声。乙姫様の侍女だろうか、少し幼い顔をしたかわい子ちゃんが、恭しくお茶を差し出していた。 その子は俺をちらりと見て、ニッコリと微笑んだ。 「はうっ」 思わずそんな声が出てしまう。 成る程俺がここに来た意味が分かった。 運命の子がこんなところにいるだなんて。 「あの子は?」 「あれは私の妹ですわ。手を出したら、ミンチにしますわよ」
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ならばならばだ。俺は乙姫の言葉責めを土産に、再び3分間の地獄を巡り地上に帰るのか?俺は確固とした目的を持ってここに来たのではないのか? たしかショーンコネリーも何かでたぶん言っていた。 「ベストを尽くすは負け犬の言葉。勝者は帰って美女を抱く」 いや、俺はまだベストすら尽くしていない! 俺はクラウチングスタートから全力ダッシュ、乙姫(妹)にタックルをかますや肩に担いで廊下に出た。押し通る!
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「きゃー!やめて!やめてください!」 乙姫(妹)は叫んでいたのだが、それすら可愛らしい。ぐへへ。 「これから僕と一緒に暮らさないか?」 ふっ。キマッタ! ここで妹ちゃんはきらきらおめめで、 はい!喜んで! というはずなのだが…。 「いやですよ!はなせ!はなせゴラァ!」 と言われながらチョップをくらっているのは何故だろう。 くそう。結局本性は一緒か。 ここには美人で性格も最高な乙女はいないのか。
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薄れゆく意識の中、俺はそう思った…… 「お姉様も健気ね」 気絶した浦島を介抱する乙姫を見て、妹が笑う。 「乙姫様と呼んで」 頬をピンク色に染めて、乙姫は言った。 「はいはい、乙姫様。よこし──浦島太郎のこと、好きなんでしょ?」 「……」 「素直じゃないですね。ツンデレとか言うやつですか?」 黙っているのを肯定ととったらしい。 そう言うと、妹はクスリと笑った。 乙姫の心を、まだ浦島は知らない。
- 完 -