○○高校1年3組 定期テストの返却日 出席番号25番 文原英斗 (ふみはら えいと) 文系科目 学年トップ 理数系科目 赤点 出席番号4番 数野理華 (かずの りか) 文系科目 赤点 理数系科目 学年トップ 何であんな役に立たねぇ数字とかわかるんだよ!あの女何か気に喰わねぇ。 どうしてあんな意味不明な文章が理解出来るの?あの人ムカつくんですけど。 これは妬み合いから始まる恋の物語
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1時間目:現代文 テスト返すぞー、と脂ぎった教師のダミ声。 出席番号順に呼ばれるのですぐに席を立ち、教師のところへ。ニヤニヤ笑う教師の手から×印だらけの答案をもぎ取る。…28点。追試だ。あんなに頑張ったのに。 悔しくて点数の所を折って隠すあたしの横を、涼しい顔で過ぎる背の高い縁なし眼鏡の男子。クラス最高点だぞ、という教師の声。堂々と、答案を隠すことなく受け取る背筋が、逸らした瞼に焼き付いた。
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2時間目:数学 数学の桃園先生がテストを持って教室に入ってきた。この人、若くて美人なのに厳しいんだよなー。 「この前のテスト、返すわよ。満点はいませんでしたが、数野さんが97点でトップでした」 また数野かよ。ま、いいけど。あいつ文系ダメダメらしいし。 桃園からテストを貰う。26か。 「文原君、もっと頑張らないと。数野さんに教えて貰ったら?」 冗談じゃない。数野とは馬が合わないに決まっている。
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(あんな奴…) (こっちから願い下げだ…) 彼ら、息は合っているらしいが、それぞれの苦手科目に対するコンプレックスの違いが、絶妙なすれ違いをもたらしていた。 そんな彼らが放課後の図書室の前でばったり鉢合わせてしまったのだから、何もない訳がない。 まず文原が、 「あ、現代文が出来ない数野さ〜ん」 そう言うと数野は、 「あ、現代文しか出来ない文原く〜ん」 「そこは“数学が出来ない”だ、訂正しろ!」
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「さぁっすが、日本語が解る人はベクトルが違うわね〜」 「いやいや、これ見よがしに数学っぽい事を言う方には叶いませんな〜」 「ホーッホッホッ」 「ハーッハッハッ」 二人の高笑いが館内に響いた。 すると、周りから静かにしろと言わんばかりの冷たい視線を浴びた。 「「…すいません」」 「…って、こんな奴相手にしてる場合じゃない。早くあの本を借りないと」 「…私もこんな奴放っといて早く本を捜さないと」
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二人は何もなかったかのように本を探しに本棚に戻った。 「あった〜」 「これか」 本をとり、受付に向かう二人。 「「この本借りまーす!!」」 二人の声がシンクロした。 もちろんここでも言い合いが起こったことは言うまでもないだろう。 「あれー?数野さんはなに借りるのかなー?」 「な…なんでもいいでしょ! そ…そういう文原こそ何借りるのよ」 「数野には関係ない!」 二人は本を隠してお互いに顔を背けた。
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「「あいつ、なんの本読むんだ?」」 お互いが、ふっと考え立ち止まった、 「んー!きになるー!」 「あいつ文系苦手だろー、意味わかるんかな?笑」 二人が同時に振り返る… 「な…なんだよ…」 「そっちこそ、何よ。」 「別に何でもないけどさ、文系苦手なお前が 何読むのかなぁーなんてさ笑」 「おーきなお世話だよー笑」 ふっと、二人は笑顔になった、 ドキっ! え?何だ? 俺、何ドキっとしてんだよ…
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妙な連帯感が生まれた瞬間だった。 本当は気がついていた。しかしながら、示し合わすように周囲がやっかむものだから、素直になれずにいただけだった。 「せえので見せ合うことな」 「わかったわよ」 「「せえの」」 お互いの手にしている本を見て笑い合った。 "なんだ、やっぱり" 「理華は理華だな」 「英斗も人のこといえない」 「違うのに」 「似ている」 「「それ収斂現象って言…」」 まただ。
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学年総ざらいとなる実力テスト。理華と英斗はかつてない真剣な表情で合図を待った。 「始め!」 ふたりは同時に書き出した。 試験結果、現代文では予想通り文原英斗が一位。そしてあの数野理華が二位につけ、数学ではふたり同率一位という快挙。 後日数野は訊かれた。 「すごいね。なにかあったの?」 彼女は笑顔で答えた。 「どこかの文学馬鹿がね、私にこう言ったの」 ──この本、俺と一緒に読まないか。
- 完 -