ループ&ループ

私は殺された。 何度も何度も私は殺された。 だけど、私は生きている。また生き返る。 不老不死なのでは無い。 何故なら私の目の前には私だったものが散乱しているから。 首をもがれて二つに分かれた私。 串刺しされて穴だらけな私。 全部潰されて私ということがわからない私。 焼け焦げて炭になった私。 腹部を開かれ臓腑がブチまけられた私。 脳味噌がくり抜かれた私。 その全てが、私。 何故私は殺されたのだろう。

noname

13年前

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遡ること一ヶ月前、私は車のトランクに乗せられていた。 かろうじて覚えているのは、仕事帰りに薄暗い夜道を歩いていたら、ドンと何かがぶつかった。 気がつくとひどい頭痛とめまい。 走ってる車に乗っているようだ… どこに向かっているのだろうか 不安とめまいに襲われてまた気を失う私。

kenshirou

13年前

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ひどい痛みで目を覚ますと、そこには長身痩躯の男が立っていた。 生憎とその男に心当たりはなく、私は知りもしないその男の奇行に腹を立てた。 記憶が混乱して感情がぐるぐると渦を巻き、目の前の、得体のしれない男を怖いと感じることさえ麻痺していた。 あなた、なんなの。 そう不満をぶつけようとしたとき、はじめて声が出ないことに気がついた。 男は私を無表情に見下している。 麻痺していた恐怖が、蘇った。

mixxx

13年前

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「…なぁ、あんたさぁ 『殺人快楽』って知ってるー?」 にたにたと効果音がつきそうな、男の笑み。 口角は歪に吊り上がり、冷酷かつ狂気に満ちた男の瞳は真っ直ぐに私をうつしている。 男の瞳にうつっている私は一体どんな顔をしているだろう。殺人鬼を悦ばせるような恐怖に歪んだ顔だろうか。それとも── 人間、窮地に立たされると頭はかえって冷静になるようだ。…私はこいつに殺される。 殺人鬼は私の首元を掴んだ。

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「…フフ…こんなに…幸福な事は…無い…!」 男はとても正気には見えなかった。 「お前を殺して…私は解放されるッ!……呪縛から…解き放たれる…!」 呪縛?解き放たれる? こいつは異常だ… こんなのに殺されるなんて…!! 意識 が…… 「***から 逃*たぞ! 次は君* 死**けることに**が ***たければ 次の**を*ろして****ことだ………

K5.

13年前

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なんだ、うまく聞き取れなかった。 何から逃げた? ……未来?いや、それはない。 呪縛がどうとか、ということは「呪い」からあの男は「逃れた」のか。 次、どうすれば。でもわたしはまだいきて、いる。死はすぐそこまできているのかもしれない。 「次は君が……」?なんだろう。 とにかく、あの言葉の意味を考えて、どうにか。だけど、もう目が霞んできた。 本当に呪いなのか? 地面に這い蹲りながら、私は

12年前

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ずるりと自分の死体から抜け出た。 それはまるで脱皮でもするかの如く、魂が身体から分離し、そして再び肉体の感覚が戻って来る。 目の前にまた一つ、私の死体が増えた。 「そうだ…家に帰らなきゃ…」 私は歩き出した、会社からのいつもの薄暗い夜道… ドン。 …トランクの中? …見知らぬ男…連日の拷問 …殺人快楽て知ってる? チェーンソーの音が股間に食い込み 自らの悲鳴と男の歓喜の声 「次は君…」

真月乃

12年前

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いったい何回、私は快楽のためにあの男に殺されたのか。 繰り返す暴行、誘拐、覚醒、殺人、復活。 増えてゆく、私の遺体たち 今日もまた仕事を終えて薄暗い夜道を歩く。背後から男の靴音と気配が近づくのを背中で感じる。 また殺人を繰り返すのか……… 遺体役はもう飽きた 私は男がぶつかる前に、ひらりと体を反転させた。体に当てられるはずだったスタンガンが空をきる。男のはっとした息づかいを感じた。

なつ

12年前

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そのまま私はスタンガンを奪いとり、男にあてがう。そして、引き金を引く。 バチン さらに手近にあった鉄パイプで頭を殴る。遺体役などもうこりごりだ、という私の欲求がそうさせた。 地面に広がっていく血。死体から抜け出る男。私を見ると、一目散に逃げていく。 気付いた。私のこの死に続けるという呪縛から解放されるには 「殺すしか、ないじゃない」 そう呟いて、私は歩きはじめた。

fusuke

12年前

- 完 -