ループ&ループ
私は殺された。
何度も何度も私は殺された。
だけど、私は生きている。また生き返る。
不老不死なのでは無い。
何故なら私の目の前には私だったものが散乱しているから。
首をもがれて二つに分かれた私。
串刺しされて穴だらけな私。
全部潰されて私ということがわからない私。
焼け焦げて炭になった私。
腹部を開かれ臓腑がブチまけられた私。
脳味噌がくり抜かれた私。
その全てが、私。
何故私は殺されたのだろう。
- 1 -
遡ること一ヶ月前、私は車のトランクに乗せられていた。
かろうじて覚えているのは、仕事帰りに薄暗い夜道を歩いていたら、ドンと何かがぶつかった。
気がつくとひどい頭痛とめまい。
走ってる車に乗っているようだ…
どこに向かっているのだろうか
不安とめまいに襲われてまた気を失う私。
- 2 -
ひどい痛みで目を覚ますと、そこには長身痩躯の男が立っていた。
生憎とその男に心当たりはなく、私は知りもしないその男の奇行に腹を立てた。
記憶が混乱して感情がぐるぐると渦を巻き、目の前の、得体のしれない男を怖いと感じることさえ麻痺していた。
あなた、なんなの。
そう不満をぶつけようとしたとき、はじめて声が出ないことに気がついた。
男は私を無表情に見下している。
麻痺していた恐怖が、蘇った。
- 3 -
「…なぁ、あんたさぁ
『殺人快楽』って知ってるー?」
にたにたと効果音がつきそうな、男の笑み。
口角は歪に吊り上がり、冷酷かつ狂気に満ちた男の瞳は真っ直ぐに私をうつしている。
男の瞳にうつっている私は一体どんな顔をしているだろう。殺人鬼を悦ばせるような恐怖に歪んだ顔だろうか。それとも──
人間、窮地に立たされると頭はかえって冷静になるようだ。…私はこいつに殺される。
殺人鬼は私の首元を掴んだ。
- 4 -
「…フフ…こんなに…幸福な事は…無い…!」
男はとても正気には見えなかった。
「お前を殺して…私は解放されるッ!……呪縛から…解き放たれる…!」
呪縛?解き放たれる?
こいつは異常だ…
こんなのに殺されるなんて…!!
意識
が……
「***から
逃*たぞ!
次は君*
死**けることに**が
***たければ
次の**を*ろして****ことだ………
- 5 -
なんだ、うまく聞き取れなかった。
何から逃げた?
……未来?いや、それはない。
呪縛がどうとか、ということは「呪い」からあの男は「逃れた」のか。
次、どうすれば。でもわたしはまだいきて、いる。死はすぐそこまできているのかもしれない。
「次は君が……」?なんだろう。
とにかく、あの言葉の意味を考えて、どうにか。だけど、もう目が霞んできた。
本当に呪いなのか?
地面に這い蹲りながら、私は
- 6 -
ずるりと自分の死体から抜け出た。
それはまるで脱皮でもするかの如く、魂が身体から分離し、そして再び肉体の感覚が戻って来る。
目の前にまた一つ、私の死体が増えた。
「そうだ…家に帰らなきゃ…」
私は歩き出した、会社からのいつもの薄暗い夜道…
ドン。
…トランクの中?
…見知らぬ男…連日の拷問
…殺人快楽て知ってる?
チェーンソーの音が股間に食い込み
自らの悲鳴と男の歓喜の声
「次は君…」
- 7 -
いったい何回、私は快楽のためにあの男に殺されたのか。
繰り返す暴行、誘拐、覚醒、殺人、復活。
増えてゆく、私の遺体たち
今日もまた仕事を終えて薄暗い夜道を歩く。背後から男の靴音と気配が近づくのを背中で感じる。
また殺人を繰り返すのか………
遺体役はもう飽きた
私は男がぶつかる前に、ひらりと体を反転させた。体に当てられるはずだったスタンガンが空をきる。男のはっとした息づかいを感じた。
- 8 -
そのまま私はスタンガンを奪いとり、男にあてがう。そして、引き金を引く。
バチン
さらに手近にあった鉄パイプで頭を殴る。遺体役などもうこりごりだ、という私の欲求がそうさせた。
地面に広がっていく血。死体から抜け出る男。私を見ると、一目散に逃げていく。
気付いた。私のこの死に続けるという呪縛から解放されるには
「殺すしか、ないじゃない」
そう呟いて、私は歩きはじめた。
- 完 -
作品情報
ループ&ループ
#58
- リレー期間
-
11ヶ月