『しのだ復興プロジェクト』

町の小さなケーキ屋「しのだ」は、経営危機を迎えていた。 店主であり、私たちの祖母でもある美味子さんが、祖父の死以来すっかり元気をなくしてしまったからだ。 このままでは、新規のチャラい横文字ケーキ屋にのっとられてしまう。 ママは娘のくせに「しょうがないわよ」なんて言って当てにならない。 「"6人よれば文殊の2倍の知恵"よ!」 かくして私たち、篠田六つ子姉妹の『しのだを救う会議』が始まった。

さはら

12年前

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『しのだを救う会議』を仕切るのは六つ子の中でも一番はじめに生まれた私。 「やっぱり、美味子さんのケーキで育ってきた私たちにとって、ちゃらい横文字のケーキ屋さんにのっとられるのは許せないことなの!さぁ、みんな!篠田六つ子姉妹の知恵を!『しのだを救う会議』をはじめます!」 ちょっと大袈裟かもしれないが、これくらい私は焦っている。ちょっとこういうの言ってみたかったっていうのはあるけど、それは秘密だ

有栖林檎

12年前

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五人の妹達は互いに顔を見合わせると、次女が代表して手をあげた。 「しのだを救うのは私たちも賛成だけど、それって美味子さんに元気になってもらうって事?それとも別の方法で救うの?ちゃらケーキ屋を潰すとか?」 「ちょ、そんなことしないわよ!」 気の強い彼女ならやりかねないので、全力で否定する。 「美味子さんに元気になってもらいたいけど…確かに別の方法も考えなきゃいけないわね。あ、強引なのは無しで」

Iku

12年前

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「ねぇ!いい事思いついたわ!」 三女が手をあげながら身を乗り出す。 五人がやれやれといった表情で三女を見る。というのも、三女は未だかつて姉妹会議の中で現実可能な案を出した試しがないのだ。 空想好きの正真正銘の不思議ちゃんである。 「私達でケーキ作ろうよ! 美味子おばあちゃんに作れない…私達にしかできないケーキ!それもね、とびっきり個性が溢れてるやつ!ほら、私達ケーキの味覚だけは一級品だしさ〜!」

RaRa

12年前

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「できっこないわ。私たちの中にケーキ作りをしたことがある人なんていないのに」 四女は冷たく突き放した。 「でもやってみないとわかんないよ~?」 なおも食い下がる三女に声をかけようとしたその時、 「確かに勝算はあるかもしれない」 と、小3ながら私たちの中で最も賢い五女が呟いた。 「どういうこと?」 「客を呼び込むために一番手っ取り早いのは話題性。孫が作ったケーキというのはその性質を十分持っている」

12年前

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「あたしケーキ食べた〜い、ケーキケーキィ」 六女はケーキにはしゃぎ始める。話の流れを理解してるかどうかは怪しいが。 「よし、『しのだを救う会議』を『しのだ復興プロジェクト』変更するわ。プロジェクトリーダーは私でいいわね?」 って、誰も聞いていない。既に彼女達はレシピについて議論を始めていた。 「面白そうね。お母さんも混ぜてもらおうかしら。お母さん、こう見えてもしのだの調理担当だったのよ」

KeiSee.

11年前

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心強い助っ人だ。 かくして、7人の女たちによる『しのだ復興プロジェクト』は幕を開けたのである。 「私達にしか作れないケーキってどんなのかな?」 「ショートケーキやモンブランはありきたりだし…」 「うーん」 早速壁にぶち当たってしまった。 「ママは何かいいアイデアない?」 頼りの母に話を振ると、暫く考えた後、あっと声をあげた。 「あなたたちが小さい頃に描いたケーキの絵なら残ってるわよ」

toi

10年前

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6段のウェデイングケーキ。ひとり一枚渡された画用紙をつなぎ合わせ大きく描かれた園児の絵。 「こんなの、残ってたんだ」 私たち姉妹は口々に感嘆をもらす。 普段はとぼけた三女が真面目な顔で言う。 「おばあちゃんのケーキってどこのお店のより美味しいじゃない? あとは宣伝だけだと思うの。『しのだ』には6つ子の孫っていうインパクトがあるわ」 宣伝か。6つ子の広告塔。

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私達、六つ子は自分達でビラを作り駅前で配る事にした。絵は勿論6段のウェデイングケーキ。美味子さんは少しだけど嬉しそうにしている。 「六つ子のケーキ屋、しのだでーす」 一人がビラを渡すと直ぐ二人目も渡す。 三人目も...渡された人はキョロキョロ。だって、場所は違うのに同じ顔で次々と渡される。この話題はあっという間に町中に広まった。看板娘が6人もいるケーキ屋『しのだ』テレビ局がほっておく筈はない。

blue

10年前

- 完 -