誕生日プレゼント

僕が生まれた日、兄は死んだ。

父は僕にそう言った。
母は兄の死を認めず、兄を思い毎日悲しみにくれている。
そして、僕を…僕の存在を認めず否定した。
僕は、親に否定されて育った。
全ては兄のせいだ。
僕は知らない兄を憎んでいるー

なのに、
それなのに……

何故か死んだはずの兄は僕の目の前に現れた…

雪路蛍
- 1 -

僕は学校から戻るとすぐに、部屋に籠った。両親はおかえりも言わない。僕はそれに構うことなく、机の上にスケッチブックを広げる。

絵を描くことだけが、僕の幸せだ。窓から見える景色や転がったペンに鉛筆で思いを馳せる間だけは、時々襲ってくる孤独感に束縛されることはない。

「きれいな絵だね」
後ろから知らない声が聞こえて、僕は驚きに小さく叫んだ。恐る恐る振り返ると、部屋の中に僕によく似た少年が立っていた。

- 2 -

「…君、誰。」
家で声を発するのは本当に久しぶりで、僕の声は小さく、かすれていた。

少年は、僕を驚かせたことに対して少しすまなそうな顔をして言った。
「トオルって言ったら、わかる?」

物心ついた時から何百回も聞いてきた。

「あぁ、あなたがトオルだったら良かったのに。」

「トオルはもっと上手だったぞ。」

「トオルは…」

なんで本人が目の前にいるのかわからないけど。

僕は頷いた。

asaya
- 3 -

「でも君の方が上手だったんでしょ」

僕は驚いた。咄嗟にこんな言葉が出てしまうなんて、僕らしくもないからだ。トオルと名乗った少年……兄は眉を下げて笑った。

「そんなことないよ。絵はてんでダメでさ」

父は何だって「トオルの方が」と言う。絵を描いている時も言われた気がした。

「……何で、突然」

僕はスケッチブックを閉じると、兄と向き合うように椅子を回す。兄は僕の目を見て答えた。

ひつじ雲
- 4 -

「神様がくれたんだ。僕が死ななかったことにするチャンスを」

「……どうして今さら」

「弟の君のことがあまりに心残りで。ずっとずっと何年も成仏せずにいたら、ついに粘り勝ちさ」

兄は嬉しそうに目を細めて、ふんわりと優しく微笑んでみせる。

君には本当に辛い思いをさせたね、と兄は優しい目で僕を見つめる。
今までの人生、こんな目で見つめられるのは初めてだ。

生まれてこのかた憎んできた兄なのに…。

Lillian.
- 5 -

「父さんと、母さんには……」

会いに行ってあげたの。
そう聞こうとして、口ごもってしまった。兄に会ったら、両親は本当に僕の存在を忘れてしまうのではないか。そう思ったのだ。
そんな事を考えてしまうから、兄のようにはなれないのかもしれない。

兄は柔らかく微笑む。

「君に、会いに来たから」
安心させるような声色で。
僕の心の内を透かして、溶かすように。

兄は、閉じたスケッチブックを指で撫でた。

絢水
- 6 -

兄の言葉は、心を優しく解すようだった。兄が生きて戻ってきたら、家族から否定される事はなくなる──?

否。

僕は、スケッチブックを乱暴にはたき落とした。兄の行き場を失った手が、惑うように揺れる。

「僕に会って生き返って、どうしたいの」
「……それは、」
「君が戻ったら、きっと家族は君しか見ない。僕は最初から居なかったことにされるだけだ」

ああ、僕はどうしてこんな事しか言えないのだろう。

流され屋
- 7 -

兄は落ちたスケッチブックを静かに拾い上げた。

「僕の一番の心残りって何かわかる?」
「そんなの…知らない」
「僕はね。君が生まれて来るのがとても楽しみだった。君とやりたい事が沢山あったんだ」
「…」
「だから、もしも僕が生き返って君が考えてるような事になっても、これまで君をずっと見守って来たように僕だけは君から目を離したりしない」

「…兄ちゃん」

「戻ろう。君が生まれて僕が死んだあの日に」

月ノ雫
- 8 -

「…またその話なの?」

僕はため息をついた。兄は笑っていた。

「僕の誕生日になるとトオル兄ちゃんは毎年その話をするね」

僕は呆れ顔で言った。

「だって本当のことなんだよ?」

自称「一度死んだ事があるらしい」兄は僕を見つめながら優しく答えた。

僕は両親から貰ったプレゼントに目を落とした。
中身はおそらく画材だろう。
兄が言った。

「誕生日おめでとう、生まれてきてくれてありがとう」

(´・ω・`)
- 完 -

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