家でゴロゴロしてる親父ばかり見ていたから、大人っていうのはさぞ楽なんだろうと思っていた。 幼い頃なんて休みの日に遊びに連れて行ってもらえないと許せなかったし、どうせ暇ならいいじゃんっておもってた。 俺だってそう思ってたから気持ちは痛いほどに分かるんだ、我が娘よ。 でも頼む。 頼むから、休みの日はパパを休ませて下さい…。
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「コラ!いつまで寝とんじゃボケ!!」 思いっきり蹴られた そう、俺の奥さんだ… 結婚した当初は可愛く起こしくれたのに 「お昼ご飯食べた後すぐに寝て今何時やと思ってんの!!何回起こしても起きへんし」 そうです俺の奥さんは関西人で ツッコミ激しいんですハイ とりあえず俺は時計を見た
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あと少しで11時というところだ。 奥さんは んもぉ〜いつまで寝てんねん〜 なんて言いながら洗濯に向かった。 そこに世界一プリチィな愛娘が パパ〜パ〜パ〜と走ってくる。 あぁ…!パパ、休みたいけど、やっぱり今日はどこかにお出かけしようか!愛娘のためじゃぁあ‼さぁ、どこへ行く⁈ 俺まであと5歩のところで、きゃ〜パパヒゲ剃ってない〜チクチクやぁ〜!と方向を変える我が娘。 あぁ…
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とりあえず髭は剃ろう。 ため息を吐きながら洗面台へ向かう。 愛娘に嫌われた髭を綺麗に剃り落として、ひと息吐く。 これで娘に嫌われる事もないはずだ。 パパ大好き〜、なんて擦りよってくる娘の姿を思わず想像して顔がにやけた。 そうだ、もっとツルツルになれば更に喜んでくれるだろうか? その時、妻の愛用している化粧水が目にとまった。これを使えばきっと… 「なにしてんの、あんた」 妻の顔が般若のようだった。
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「アンタなぁ、おっさんのクセに、なに色気付いとんねん」 い、いや、ただ何となく、と優子の視線を誤魔化し、逃げるように自室へと逃げ込むと、不意に深いため息が出た。 机の上に立ててある、一枚の写真。まだ若い、俺と優子。純白のドレスとタキシード。笑顔の二人。 あぁ時の流れは無情だなと呟き、写真立てを手前へ倒す。 「アンタ、昨日な、女の人から電話あったで」 妙に低く響く優子の声が背中に刺さった。
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一体誰だ? 恐怖と共に俺の脳ミソは一気にフル回転した。 もしかして、スナックのママ? そういえば、俺の事をしきりに興味持ってたからな…って、いやいや、んな訳ねーだろ‼ もしかして、仕事場からか? でも、先月クレームが出たから、今月は万全体制で望んだし…。 う〜、誰だ…。 すると、優子がくすっと微笑んだ。 「アンタのお義母さんよ。目ぇ覚めた?」 やられた…orz 俺は母に電話してみた。
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「はい、もしもしー」 相変わらずのダミ声に、無愛想に投げつけられた言葉から、母ちゃんがナンバーデスプレとか何とかいいながらはしゃいでいたのを思い出した。 「何の用?」「帰ってくるらしいよ」「誰がー」「真美ちゃん」ズッキューン。 その後の会話は覚えていない。 真美が帰ってくる。母ちゃんの話では国際結婚がやっぱりうまくいかなかったようだ。 上目使いで優子を見た。鼻歌交じりに洗濯を干している。
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俺の高校生のときの彼女、そして初めてつきあった相手が真美だ。 卒業して、俺は都内の大学へ、真美は地元の短大へ、それぞれ進学した。 「離れてても、恋人やけん。毎日メールするけんね」 最後に会った日、真美はそう言って、白い頬にぽろぽろと涙を流した。 その後はお決まりのストーリー。遠恋で最後はなんとなく別れ、俺は東京で就職、社に派遣で来ていた優子と結婚した。 真美は…。 ん?真美は…。 死んだよな?
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真美は米国で結婚し…事故で亡くなったんだ。 当然お墓も向こうだ。だが5年経った今やっとご両親の願いが叶い、分骨という形で帰って来る事になったそうだ。 …初カノの墓参りに行ってもいいか?… 俺は優子に…奥さんに全てを話した。 妻は家事の手を止め… 「家族で…挨拶に行こか」と、俺の背中をポンと叩き、優しく摩ってくれた。 それを見た娘が俺の膝に抱きつき、顔を埋めながら言った 「ありがとな~」…と…
- 完 -