応援スタンドには諦めのムードが漂っていた。それでも、1番打者がバッターボックスに立つと、応援団は懸命に腕をふり、声を張り上げた。 9回の裏。6点差を追う野々木高校に許されるのたったふたつのアウトだけ。 ピッチャーを睨みつけると小島は大きく息を吸った。我ら野々木ナインの底力を見せてやる。9人全員の力を出し切るんだ‥! 「ピッチャー、投げました。おっと、セーフティバントですね‥!‥成功!」
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次のバッターは二番、山神。一塁ベースでは小島がガッツポーズをしていた。そして空高く、かかげるキツネのポーズ。それは皆で決めた勝利のポーズだった。諦めるな、という小島の想いが伝わってくる。それを決めた時にまっさきにダサいといい、今まで一回も使おうとしなかった小島がそのポーズをとった。それは山神の心にあった諦めを綺麗サッパリ消してしまった。山神は送りバントの構えをした。笑う投手。ど真ん中直球。バスター
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ッギィィン!! 『内野ゴロ!!1塁ランナーは早めにスタートを切っているがゲッつあぁあっっとぉお!!投げられないっ!!』 ショート、落球_____ ランナー1、2塁。3番右打ち、無口な武田。 『ピッチャー、甘い球が続いています!疲れが隠せないか!』 『クイックからの初球!』 『痛烈な流し打ち!』『右中間を抜ける3ベース!ランナー2人生還で8-4!』 武田、キツネのポーズ_____
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1アウト3塁。 ここで今日はヒットのない4番山田… 『おーとここで監督動きます‼まさか4番に代打でしょうか?えー1年生の鈴木君ですね、全くデータのない未知の選手です‼』 山田は寂しげにキツネのポーズでベンチにひいた。 鈴木は初球、あまい球を引っ張りあわやホームランというあたり。 「おーと信じられない情報です!鈴木君はあのイ◯ロー選手の親戚の様です!どんな打撃を披露するのでしょうか!?」
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ピッチャーの投球。球はキャッチャーのミットを少し逸れ、外角高め、つまり鈴木の胸元に向かう。 そして 「デッドボール!」 審判のジャッジ。 鈴木はよろけながら一塁へ向かう。監督が代走として岸川を起用する。鈴木と岸川が入れ替わり際にキツネのポーズを交わす。 1アウト一塁三塁。ダブルプレーは避けたい。 5番の福永が打席に入る。 監督のサインはまさかの、 『ああーっと! ここで意表を突くスクイズだ!』
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あーー! 意表をつかれたピッチャー、捕球が精一杯だ、何処にも投げられない!! ランナー生還! 一、三塁です。 俄然盛り上がる!! しかし、ここで監督が動くか? 伝令がマウンドに走ります。 あ~~ ピッチャー交代の様です。 『ピッチャー、変わりまして三枝!』 このピンチにまさかの一年生を起用です。 いやがおうにも盛り上がる両校の応援団! 先が分からなくなりました!
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六番東狐。監督の指示はない。初対峙する一年三枝に対し、真っ向勝負を挑むようです。 三枝二球連続ど真ん中! 挑発の意味もあるのでしょうか。一年にして肝っ玉です。 東狐追い込まれましたが、余裕の表情。見切ったとばかり狐のポーズをすでにしています。 三球目高速スライダー! 三枝ここで勝負にでました。東狐待っていたとばかりのフルスイング! 三遊間を抜けた! 東狐一塁に悠々向かうも、少し悔しそうです。
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東狐の適時打で三塁の鈴木が生還、野々木は9回裏1死から4点を取る猛攻で点差はわずか2点。 走者一、二塁で迎える打者は7番近藤。 長打はありませんがチャンスに強いデータが残っています。 対する白新学院、たまらず三枝の周りに集まり、円陣を組みポジションに戻ります。 三塁が空いていますが勝負のようです。 三枝の三球目を近藤がジャストミート! しかし、痛烈な打球は三塁手正面! ランナー動けず二死。
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8番杉山。今日は当たっています!ここで試合を決めるか? 初球を振り抜いた!ライトがバックする、バックする、見上げた、入った!サヨナラホームラン!やりました杉山!甘い球を逃さず打ちました! 野々木高校の太田監督は試合後のインタビューで 「皆本当によくやってくれました。『有難う』と言いたいです。」 涙ぐみながらそう言うと、狐のポーズをとった。 あのポーズが、チームを一丸にしているのかもしれない。
- 完 -