愛してる。 愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるだって愛してるからさ 俺を愛して欲しいんだ。 もちろん、歪んだ愛だっていうのは知ってるよ? 愛の対象物が普通じゃないのも知ってるよ? でも愛してる。 今思えば、多分俺は愛を渇望していたんだ。 最初はただ普通じゃない君に憧れていたんだ。 まあ…そんなことどうでもいいか…。 愛してる愛してる愛してる…
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目を開けると、見知らぬ部屋の壁が見えた。何故ここにいるの?思い出せない。最後の記憶は通い慣れた校門だったはず…。しかしそこから記憶が途切れている。とりあえず、ここが何処か確かめようと身体を動かそうとしたが…動かなかった。目から見える鏡は私ではなく人形を移した。 現状の危険を感じ、焦り始めたその時、遠くから声が聞こえ始めた。 愛してる…愛してる…愛してる…愛してる…愛してる…俺を愛して欲しい…
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愛したい、とただ思った。 彼女の何に惹かれたのか、正直のところよくわかっていない。 容姿か、声か、視線か、思考か。とにかく、彼女を一目見てふと愛してる、愛したいと思ったのだ。 しかし、彼女は俺のことを知らない。彼女に近付く術を知らない。 だから俺は彼女そっくりの人形を作って、それを愛でることにしたのだ。 愛してる、愛してる、俺を愛して? 人形をゆっくり持ち上げ、そっと抱きしめた。
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人形には意思がない。 最初からこの愛を理解されるとは思っていない。 人形は動かない。 つまりどこにも行かない。 愛してほしいなら、まず自身を知ってもらわなくては。 俺は人形に飽きてしまい本物の彼女にこの愛を知ってもらおうと思った。 愛してる愛してる──
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俺の目にはもう彼女しか映らない。他の女なんか存在しない。彼女だけの世界に行きたい。 彼女は今不幸なんだ。誰にも必要とされない哀れな少女なんだ。 でも大丈夫。俺が隣にいてあげる。君を幸せにできるのは俺しかいない。 愛してる......愛してる...... だから俺と...... 二人だけの世界に行こうよ 愛してる......愛してる......
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僕は彼女を校門の前で待ち伏せることにした。 とにかく、僕ことを少しでもたくさん知ってもらいたい。 僕がどれだけ彼女のことを愛しているのか、理解して欲しい。 愛してる、愛してる、愛してる…。 どれだけ反芻しても、彼女のへの愛が揺らぐことなどない。 暫らく待っていたら、人形ではない本物の彼女が姿を現した。 僕は誰かに盗られる気がして、咄嗟に彼女の手をとり、走り出した。 愛してる、と叫びながら。
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「やめて!」 彼女は僕の手を振り払いかけ出した。今思えばあの時もっと強く手を握っていればよかったと思う。いっそのこと抱きかかえていればよかったかもしれない。 黒い車が彼女をはねた。 車は慌てて走り去った。僕は彼女のもとにかけよった。身体はぐにゃぐにゃだが顔だけは凄く綺麗で僕は何故か分からないが何処かの誰かに感謝してしまった。 息はしていなかった。でもまだこの体は生きている、まだ間に合う。
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僕は急いで彼女を抱きかかえて、自分の部屋に連れ帰った。 そしてベッドに横たわらせると、夢にまでみた本物の彼女の愛らしい唇に静かにキスを落とした。 まだほんのり温かい手を握りしめた。 …愛してる。 小さく耳元に呟いてみた。彼女は何も言わない。 真っ白な素肌に、生々しい鮮血がこの世のものとは思えないほど美しかった。
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──全部、思い出した。 あの人の手を振り払った、その後を。 あの人は時々私に会いにくる。けれど今の私は人形。あの人は人形の中に私の存在を見出せなくて、ひどく悲しい顔で呟く。 愛してる、と。 それでも私は今ここにいる。 だから、今度は私があの人に伝えたい。 もちろん、あの人の愛が歪んでいるのは知っている。だけど、そんなことどうでもいい。 愛してる愛してる愛してる。 私も、普通じゃなかったから。
- 完 -