novelnove

tell me

ただの友達だった私達は、気がついたら師弟になっていた。
疑問を投げる。彼は答えるのに不十分な点を説明させる。そのさらなる追求的な説明、そして疑問で彼は更に深い事に自分の中で気づき、勝手に納得する。
「何でこうなったのでしょうね?」
「原因の一つは、君が決して敬語を崩さなかったのがあると思うよ。同い年だからタメ語でいいって言ってるのに…」
「やっぱり、頭が良いですから。自然とへりくだるんですよ…」

harapeko64
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「そもそも、頭が良いということをどう定義するかだよ。知識量だけじゃない、理解力、発想力…」
「全部お持ちでしょう。だから尊敬しているんですよ」
彼の思考はいつも鮮やかだ。私にはないその思考を私は敬う。そして、焦がれる。彼とならいつまでも話していられる。必ず新しい発見があるからだ。
そんな彼に、ぶつけてみたい疑問がある。けれどなかなか、ぶつけてみる勇気が出ない。
「私のことを、どう思っていますか?」

lalalacco
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何通りか答えの予測をしている。良い方と、悪い方と。
その思考を知りたい。もっともっと話していたい。だから、今の状況を失うのが一番怖い。そしてまた言えなくなってしまうのだ。

けれど、このままで良いとも思えなかった。話せば、良い方へ行く可能性もある。斬新な発想を持つ彼のことだ。予想以上の提案をしてくれるかもしれない。

彼とよく飲みに行く店で、私は今日こその決意を胸に、カウンターで彼を待った。

Face
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いつもなら約束の時間より早く、私より早く席に着いているはずの彼が、今日はなかなか現れない。時計を見ると約束の時間の五分前。そろそろか…、そう思うと決意が揺らぐ。

秒針を見つめる私は、彼がいつの間にか隣にいることに気がつかずにいた。
「秒針ばかり見てたら目が回るよ」と、約束の時間に彼が話しかけてきた。
椅子から飛び上がりそうになる私に、落ち着いてと言いながら笑いをこらえている彼。

言葉を見失う。

Face
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今日はカウンター席で良かった。
心からそう思った。いつものように対面している席だったら、私の表情からいろいろ察してしまうかもしれない。

「まず何か頼もうか、いつものでいいかい?」
「はい」

「お待たせしました」

沈黙を破るかのようにドリンクが運ばれてきた。

私はいつも通りシェリーというワインを、彼は見たことのないお酒を頼んでいた。

「それ、なんですか?」
「ポートワインってやつだよ」

小橋川ハル
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名前を聞いたことはあったが、飲んだことはない。美味しいんですか、と何ということもなく尋ねた。
言ってから、愚問だと気づく。美味しくなければ、頼むはずがないではないか。
当然そう言われるかと内心身を竦めたのに、彼は少し笑っただけだった。それから、グラスをすっと私の前に滑らせる。
「飲んでみるかい」
それもまた、何ということもない調子。
けれど私の心には、微かに揺れるワインの如くさざ波が立つ。

misato
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「…美味しい。」
ひとくち、飲んでみて、思わず感嘆の声が漏れた。

「あ。」
驚いたような声を彼が出した。

「何ですか?」
その様子が不思議で、私は首を傾げる。

「今の、敬語じゃなかった。」
くすくす、と彼が笑った。

「ほんと、好きだよ、そういうとこ。」

どきん、と胸が高鳴った。

「私のこと、どう思ってるの?」

敬語じゃなくなってしまったのは、酔いのせいにしてしまえばいい。

ayasa
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「それに適した名前があるなら教えてもらいたいね」
彼はちらりと私を見つめてから、目の前のグラスを傾けた。さざ波は其処彼処にある。言いようのない緊張感に包まれ私は消え入りそうな声で、ごめんなさいと呟く。
「悪い事してないのに謝るのはおかしい。すぐ自分に非があると感じるのは悪い癖だよ」
「でも、困らせてしまいました」
「困ってるように見えるのかな」
そう言った後、彼は笑みを浮かべ、グラスに口をつける。

'靉'
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「君のことをどう思っているかって、そりゃ」
早鐘が煩い。彼から目を逸らしたくなる。けれど一呼吸置いた後も言葉が続くことはなく、彼はポートワインをまた一口含んだのだった。
「じゃあ、このワインの意味を知ってるかい?」
彼が疑問に答える際のお決まりの切り出し方だ。私が素直にかぶりを振ると、彼は静かに眼を細めた。クラリとした。そんな顔は知らない。
「これを君に勧めるのはね」

ああ、きっと、全て超えて。

雪丸
- 完 -