朝、学校に着くと誰もいなかった。俺は急いで携帯を取り出す。画面をスクロールさせ、親友の元へかける。 「・・・なぁ、今日って…」 「休みだぞ」 やってしまった。創立記念日か。夏休みの登校日に気がつかず休んだ俺は、こういったことに人一倍気を使っていたはずなのに。 思わずやってきた休日、制服姿の俺はどう過ごそうか。 悩む俺の背後から、慌ただしい足音が聞こえた。
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「うっわー、遅刻遅刻ー!」 慌ただしく走ってきたのは幼馴染の女の子。 「て、校門しまってんじゃん!?なんでなんで!?」 「なんでって、今日は創立記念日で休みに決まってるだろ?」 さっき知った事実を以前から知ってたかのように俺は言った。おもしれ、泣きそうな顔してやんの。 「そういうあんたこそ、制服着てんじゃない!あんたも間違えたんでしょ!」 痛いところをつかれた。 なんて切り替えすべきか?
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「制服が普段着なんだ」 なんて、オシャレなコトを言ってみたかったが、何故か間違えたコトを素直に言ってしまった。 「ふーん…相変わらずバカね、あんたって」 乱れた髪を整えながら、バカがバカに「バカ」と言っていた。 こいつとは、昔から仲が良いんだ。気が合うってのかな❓なんにせよ、創立記念日に登校してしまった俺たちは気が合うと言わざるを得ないか。まったく、めでたい2人だ。
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「あぁーもう、予定狂った〜‼」 そう言って、頭を掻き毟ろうとしたが、先ほど整えたばかりだと気付いたのか、その手は宙に止まった。 俺はその様子を面白がって見ていたが、 「うがーッ‼」 悶えていた彼女は俺に指をビシッと向けると、 「あんた、私とカラオケ来なさい!」 そう叫んだ。 「なんでだ⁈」 しかし彼女の耳には届いてない。 「このイライラ、どう発散してやろうか!」 「おい!お前、まずクールになれ!」
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「私はいつだってクールだっつーの」 ついさっきまで、門が閉まってるの見て慌ててた奴が言う台詞かよ。 「どうせあんたも、これから予定ないんでしょ? 付き合いなさいよ」 まぁ確かに、暇と言えばそうか。よし、それなら。 「勝負だ」 「はぁ?」 「だから、どっちが高得点を取れるか勝負だ!」 「……ふーん、いいわよ。じゃあ、最高得点取った方の言うことを何でも一つ聞くってことで」 「望む所だ」
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圧勝だった。 俺もそれほど歌がうまい方ではないのだが、彼女は筋金入りの音痴だった。 余裕綽々の顔で歌い出したが、第一声を聞いた瞬間に、テーブルについていた肘がズルっと滑ってしまったほどだ。 カラオケボックスをでた後も「マイクの調子が…」とか何とかブツブツ言っていたが、急にこちらに顔を向け 「…何が望みよ」 え?あ、勝負に勝ったのか、俺は。全く相手にならなかったのですっかり忘れてた。
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彼女はマイクで叫んだ。 「エッチな命令以外は言うこと聞くわ!早く言いなさい!」 見損なうな。こんなことでいやらしい要求をする男じゃねえ。もちろん彼女の冗談だと分かってるから俺も軽い気持ちで言い返した。 「エッチなってお前ね、今更俺とお前が男と女になるかよ」 ……な、なんだよ。何でそこで唇噛むんだよ。俺は空気を変えようと明るく言った。 「命令は、よ、よし、昔遊んだ公園にでも行くか!公園に付き合え」
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「えー」 「なんだよ、言うこと聞くっつっただろ」 彼女は両頬をふくらせて、早歩きで進んでいった。 「わー懐かしいー!」 その公園は相変わらず砂場とブランコしか無い。このブランコも二人で来ていた頃はまだ大きいように感じていたのに・・・ 俺と彼女はブランコに座って、始めて会った時の事を語り出した。
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「覚えてないの⁉あんたがあの時私に遊ぼうって言って来たのよ!」 「なに言ってんだよ!お前が、俺に言って来たんだよ‼」 いつのまにか2人のブランコは大きく揺れて綺麗な弧を描いていた。 このまま靴でも飛ばしてしまおうか 「ねぇ」 「なんだよ…」 彼女はスニーカーを踵でズラして思いっきり飛ばした。 「なんだよ、挑発か?」 ノッてやろうと思ったのに 「次の創立記念日っていつかな…」 …来年だよ
- 完 -