嫌な奴

藤崎は人と話す時相手の目をじっと見る人だった。僕は少しそれが苦手だった。 「お前は宇宙人を信じているかい?」 昼休み、自販機の前で出会った藤崎にそう聞かれた。やはり目をじっと見ている。 「宇宙は広いからね、いてもおかしくないんじゃないかな。」 「神さまは?」 「どうだろう、いたら面白いなぁ。」 じゃあ、と言って藤崎は買ったばかりのコーラの缶を開けた。 「宇宙人は神さまを信じていると思うかい?」

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藤崎はじっと目を見てくる。 僕の答えに興味津々の様子。 「信じてるんじゃないかな」 僕はコーヒーを買いながら答えた。 藤崎は驚きの表情を浮かべた。藤崎はコーラを一口煽るとまた尋ねてくる。 「意外だな。どうしてだい?」 「宇宙にも地球人と同じように文化が存在しているとしたら、宗教も存在してるはず。なら、その神さまとやらを信じててもおかしくないだろ」 「お前、なかなか面白い思考を持ってるな」

Dr.K

6年前

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「なんだよ、馬鹿にしてるのか?」 「本当に褒めたんだよ」 缶コーヒーは微糖と表示されているのに関わらず、随分甘く感じられた。 「じゃあ、反対に、神様は宇宙人を信じていると思うか?」 水分の塊がうっ、と喉につかえそうになった。 質問の真意がわからない。 世界を作ったのが神ならば、宇宙人だって、神が作るもの。神が宇宙人を信じなけりゃ、宇宙人は存在しないのに等しい。 藤崎はじっと目を見てくる。

aoto

6年前

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あの目。いつもそう。試されているような気がして、どの答えも不正解な気がして、嫌なんだ。 謎の質問をしてくる藤崎の求めている回答は分からない。こんな時は適当が一番だと思い、深く考えないことにした。 「信じているかは分からないけど、神だって未知に関するイメージを持っていることは確かだろう。自分の知らないところにある存在。宇宙神とでも言うのかね?そういうのは考えたりするんじゃないのか?」

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「ふーん」 「なんだよ?」 「別に」 どうやら納得する回答ではなかったらしい。 「神は本来完全な存在でなければならないはずだ」 正直何を言いたいのかわからない?適当に返すのも難しい。藤崎はそんな僕に構わず話しを続ける。 「誰にも持ち上げられない岩を作れるはずだ」 「もしお前の言う神が本物なら、それは神じゃない力をもった子供だ」 そうして、藤崎は熱弁を始めた。

深夜

6年前

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もういい加減うっとうしくなった僕は藤崎の話を聞き流しながら教室までの廊下を歩く。 なんとなく軽い気持ちで会話に応じてしまったけど、もしかすると藤崎は会話をしたかったわけじゃないのかもしれない。 僕の意見などどうでもよかったのかもしれない。 「はずだ!」「べきだ!」と語尾を強める彼の熱弁に僕は不要だ。 どうすれば逃げ出せるか思案していると、視界の端に目を疑うようなものが映った。 「おい、藤崎!」

イト

5年前

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「なんだよ?」 「あ……あ……あれ、見ろよ!」 藤崎は僕の指差した先に視線を移した。 校庭に一隻のUFOが浮いていた。 運動場に着陸しようとしていて、ゆっくりと下降している。 外にいた生徒や先生達が逃げまどっていた。 「いやに迎えが早いな⁉︎」 と藤崎がボソッと呟いた。 「えっ?」 僕が聞き返すと藤崎はいつものように僕の目をじっと見ながら平然と言ってのけた。 「あれは僕を迎えに来たんだよ」と。

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「迎えに…? かぐや姫みたいにか?」 僕は藤崎の目をじっと見つめて訊いた。 「その通りさ。かぐや姫みたいに風雅な感じじゃないけどな」 藤崎はUFOを見てふっと笑った。 「なぁ、お前はどこへ行くんだ?」 意外にも僕は冷静だった。 「どこって、さっきお前が言っていた宇宙神のところだな」 藤崎がそう言った瞬間、UFOから宇宙人が現れて藤崎の手を引いて行った。 「おい!藤崎!」 藤崎は僕を見て微笑んだ。

Ellie

5年前

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UFOから発せられた閃光は、僕の視界を一瞬で奪うと同時に、僕に微笑む青年を瞼の裏に残した。 目が慣れるにつれ、彼の印象は朧げになっていった。 立ちくらみにも似た酔いから覚めると、僕は廊下に居た。 窓枠にはコーラの缶が置いてあり、持ち上げれば、まだ十分に中身が入っていた。 なんだか無性にムカついて、悲しくなった。 きっと嫌な奴だ。 飲みさしを、置き去りにして、 どっかに行っちまう奴なんて。

- 完 -