見つけた

信号待ちの短い時間で、エイコのモチベーションは一気に零地点にまで落ち込んだ。 いまさっき立ち止まって開いたばかりのスマホの画面をさっさと閉じてしまうと、大きな溜息を吐く。 (…やっぱり見なきゃよかった) 横断歩道を蹴るように大股で渡りながら、彼女は自分の軽率さを呪った。 ーーそれを見たのは、ほんの出来心からだった。

おやぶん

11年前

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昨日の夜、友達からメールがあった。 何処かのサイトのURLと、「大ニュース!」のメッセージのみ。 その後すぐ寝落ちしてしまったから、と思い出したのがいけなかった。 そのサイトは、元カレのサイトだった。 しかも、結婚の報告、だった。 元カレの横に並んでいたのは、私から彼を奪った、かつての親友だ。

sino

11年前

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「何が大ニュースだよ」 私はあれ以来恋愛が出来ない。 あの頃は彼を信じ、いや信じるとかじゃなくて疑う気持ちすら無くただ彼の為に着飾り、心から笑っていた。 彼女には些細な事、彼の好きな物が自分は苦手だとか本当にどうでもいいことを悩みとして相談し、1人で友情を感じていた。 2人のおかげで人間不信ってやつになった。 でも、恋愛ができない本当の理由は自分が薄っぺらい人間なのかもという不安からだ。

makino

11年前

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不安はいつも、自己嫌悪へ繋がる。自己嫌悪はどうしようもない無力感へ。 私は何をしているのだろうか。こんなところで。こんな晴れた日に。 もううんざりだ。他人を拒むのも、自分の足で歩くのも、もううんざり。疲れてしまった。 「あー死にたいなぁ」 本当に死にたいわけじゃない。ただ無力感と疲労感が言わせた。控えることもなく、普通に飛び出たその言葉は、すれ違った青年に声をかけさせるほどの威力を持っていた。

夏草 明

11年前

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「あのっ、…大丈夫ですか?」 「へっ?」 大学生だろうか、カジュアルな服装に小洒落たアクセサリーを身につけた青年が、遠慮がちに声をかけてきた。 あ、さっきの独り言⁉︎あれ、私、周りの人が気づく位の声で…? 途端に顔に熱が昇り、思わず両手で頬を覆うと同時に、 カツン と、持っていたスマホを落とした。 「あっ」と、青年が拾いあげ、申し訳なさそうに 「すみません、急に俺が声をかけたせいで」

11年前

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「あ...いえ、私もボーっとしてたもので..迷惑でしたよね、すみません、、」 「いや、大丈夫ですよ。 あ、スマホ.. どうぞ。」 そういって青年は私にスマホを渡そうとした。 すると間違えて触れてしまったのか 電源がつき、さっきのブログの画面が出てきた。 「...見つけた。」突然青年が震えながら 呟いた

電子音

11年前

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「え?」 なにをですか、と問おうとして青年の視線の先がスマホの画面の中にあることに気づいた。 「あの。この二人のどちらかとお知り合い、なんですか。」 怒ったような青年の顔が怖くて、私は恐る恐る尋ねる。 私の声に、はっとしたように青年は表情を和らげた。 「あ、すみません。あの、お時間あったらで良いんだけど…ちょっとどこかに入ってお話できませんか?」 口早に青年は言った。

asaya

11年前

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「このサイト、どうやって見つけました?」 彼の勧めで入った喫茶店は、人が多く騒がしかった。 でも今の私にはちょうどいい。 だって、人が多い方がびくびくしないで済む。 「親友が送ってきたんです。元カレなの。それでちょっと動揺して」 「お気の毒です」 彼は無表情で言った。少しも同情していないのがありありとわかる。 でもそれでいい。 下手に同情されたら泣いてしまいそう。 「僕は彼女のストーカーです」

Dangerous

11年前

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「‼︎⁉︎」 頭の中はパニック… 彼は話を続ける。 「そう…初めはね。この女の結婚相手がわかったと同時に君の存在を知った。」 感情なんてないかのように彼は続ける。 「辛かったよね…」 そう言った彼はフッと笑った。 私は、とっさに恐怖を感じた。 これが始まりの合図だったのだろう… 「見つけた…」 「やっと見つけた…」 「あの女にもう用はない」 あの女の次の対象は君だよ…

kicokico

10年前

- 完 -