ちいさなうそのおはなし

深いふかい森の奥。 ずっとずっと進んでいくと、小さな小屋が ありました… 「あら、こんなところに小屋があるわ。」 一人の少女がその小屋の戸をゆっくりと開きました。「まぁ、なんてすてきな所!道に迷ってしまったから休んでいきましょう」 少女はそばにあった、木のいすに腰掛けました。 小屋は、木でできており大分、古く感じられました。屋根は素敵なアイスグリーンで、そこらじゅう、蔦がはっておりました。

mimi

12年前

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部屋の中もステキなパッチワークやら、銀細工の食器なども少しですが飾られていました。 ただ一つ、不思議な違和感が無いと言えば嘘になったでしょう。少女自身も初めは気が付かなかったのですが、椅子に腰掛けている内にその違和感の正体がわかりました。 それは、部屋の中の全ての物が一回り大きなサイズだったのです。 実際、少女が腰掛ける時もまるでお婆さんの様にどっこらしょと言いながらよじ登ったのを思い出しました。

真月乃

12年前

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大きな物は椅子だけではありません。 机も、花瓶も、銀細工の食器も、暖炉も、フカフカの絨毯も、ありとあらゆる、すべての物が一回り大きかったのです。 少女はそのことを大して気にも留めていませんでした。 しかし、暖炉に蒔をくべる時、少女は恐ろしい事実に気がつきました。 一瞬、暖炉が小屋に入った時より大きくなって見えたのですが、そうではありませんでした。 実は、少女の体がみるみる縮んでいたのです。

zudokoncho

11年前

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少女は焦りました。 少女は家から出れば元に戻ると考えてドアを開けようとしましたが、小さな体でドアを開けることはできません。 窓もすべて閉まっています。 途方に暮れていたときでした。 「今日のお菓子はマカロンでも作りましょう」 「それいいわ!そうしましょう!」 2人の女の子が入ってきました。 可愛くて高そうな服を着ているのでお金持ちの方なのでしょうか。 どうやら、ここの家に住んでいるようです。

心 花

11年前

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あわてた少女は近くにあった底の深い銀細工の大きな皿の中に隠れました。 近くからは大きな少女たちの声が聞こえます。 「チル、ボウルとウィスク用意してちょうだい。私は卵と砂糖を持ってくるから」 「わかったわ!クル。すぐに用意するわ!」 どうやら2人はチルとクルという名前のようです。 ─隠れて見ていた少女はひとまず皿の中で休もうと、皿の中に座り込みました。 するとその瞬間皿は揺れ、宙に浮き始めたのです。

古真記

11年前

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糸巻きほどの背丈に縮んだ少女の体に、平衡感覚を失わせる浮揚感が襲ってきます。 きゃっ! ──そう声を上げてしまうのは仕方のない事でした。 チルと呼ばれた赤毛の娘もまた目を真ん丸にして皿に釘付けになります。体はこちらに向けたまま、急くようにクルを手招きしました。 少女と四つの目が向かい合います。 「あなた、どこから来たの?」 「小さくなっているということは此処へ来る前、誰かに嘘をついて来たわね?」

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「…嘘を?」 そういえば此処に来る前、森に行ってはいけないという言いつけを破って出て来たのでしたっけ。 「まあいいわ、それより遊びましょうよ」 「私たちこれからマカロンを作るの」 「攪拌が大事なのよ」 「そう、空気を含ませすぎてもいけないの」 チルとクルが少女の皿に手を伸ばそうとしたその時でした。 「お前たち!」 部屋中に轟くような大きな声です。少女の乗った銀の皿はカタカタと心許なく揺れました。

Utubo

9年前

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「勝手に入るんじゃないよ!此処は私の家さ」「つい、ゴメンなさい。これからマカロンを作るんです。よかったらミレおばさまもいかが?」「食べようじゃないか。そこの小さなお嬢さんもね」「私を元に戻して下さい。」「じゃあ、お前の何かを捧げな。例えばその若さとか」「構わないわ」「そうかい。じゃあ、遠慮なく」ピロリロリと笛を吹き、ミレおばさんは若返った。代わりに私はおばさんになる。うわーん、生きてゆけないわ。

9年前

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少女がそこまで話し終えると、母親は料理を作る手を止めて可笑しそうに言いました。 「おやおや。またあなたはそうやって嘘のお話ばっかりするんだわ」 少女は口をとがらせました。 「あら、どうして嘘だってわかるの?」 簡単よ、と母親は少女を指さします。 「あなた、どんどん小さくなってるもの」 きゃあ、と叫んで飛び上がった少女を見て、母親はくすくすと笑いました。 「──さあ、マカロンを作りましょう」

まーの

8年前

- 完 -