フシギナスマホ

「ねっむ…。」 独り言をぽつりとつぶやく。 とにかく眠い。 最近、ある理由でほとんど睡眠が取れていないのだ。 「ああくそ…ねっむい…。」 そしてそのある理由でストレスは溜まりまくりだ。 ある理由とは、すごく簡単なものだった。

13年前

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・・・ト・ウ・サ・ツ・・・ 何故だか理由は分からない、 ある日突然、僕のスマホに、 見知らぬ部屋が中継される様になった。 アプリではない。唐突に、その中継画面がスマホを占拠したのだ。 その為、最早スマホとしては機能していない。 毎日!四六時中!常に! その見知らぬ部屋の中の光景が見えるのだ。 ナニモカモ。 そして、 僕はその部屋の見知らぬ住人に… 恋をしてしまった。

真月乃

13年前

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盗撮といっても、音声は無い。 ただただ、その住人の部屋が映し出されているだけだ。 朝起きて、ご飯を食べて何処かに出掛ける。 帰ってきたら夕飯を食べて、テレビを観たり、電話やメールをしたり。 夜になれば明かりを消して寝るので、画面は朝まで真っ暗のまま。 最初はつまらないと思った。 でも、何となく見続けている内に、その住人に魅かれ始めてる僕がいた。 声も聞こえず、顔もハッキリとは映らないのにだ。

kyo

12年前

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彼女は、出かける準備をしている。何か探している様だ。ドレッサーの上、テーブルの下あちこち探している。あぁー片方のピアスを探しているんだな。あれは、外した後ポンとドレッサーの上に置いたやつだ。それは転がり本棚の隙間にある。彼女はそれを知らない。僕は焦れったくなり、 「本棚の隙間にあるって!」 と、画面に向って叫んでしまった。すると彼女はキョロキョロしだしだ。『まさか、こっちの声は聞こえるのか⁈』

blue

12年前

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彼女は本棚の隙間からピアスを見つけ、首を傾げている。確かに声は届いたようだ。思わずスマホをベッドの上に放り投げる。 僕の胸にこみ上げるこの想いは、相手に伝えることができる。それを知った今、想いはすぐにでも口から飛び出しそうだ。吐き出してしまえば少しは眠れるようになるだろうか。思考が渦巻き、悶々とする。 スマホを拾うと彼女はまた何か探していた。 僕だ、と直感する。 「そっちじゃない、真後ろだよ」

lalalacco

12年前

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彼女の、茶色い瞳がこちらを見た。僕のハートはど真ん中を射抜かれて、世界が薔薇色に染まった。 一重まぶたに、色白な肌、健康的な桃色の唇。赤いシャツからのぞく首元と鎖骨。頬の横で誘うように揺れる、緩く巻かれた茶髪。初めて真正面から見た彼女の顔に、僕の心臓は乱舞を始める。心音が聞こえたらどうしようと焦っていると、彼女の手が伸びて、いっそう心臓が跳ね上がって、そして。 彼女の顔が、見えなくなった。

sir-spring

12年前

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僕の心を包んでいた高揚感は、次第になんとも言えない罪悪感へと変わっていった。 暗くなったスマホの画面を見ながら、彼女の顔を見たことを少し後悔する。 しばらくすると、画面には再び彼女の部屋が映しだされた。 「なにこれ?誰の部屋なの?」 不意にどこからか女の人の声がした。 …もしかして? 画面を覗くと、彼女が混乱した様子で自分のスマホの画面をしきりにいじっている。

てつや

11年前

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こちらを見つめる彼女のスクリーンショットを、何度も撮ろうとしたけれどシャッター音が鳴ることはなかった。 「やだ誰? 動画?」 まずは落ち着いて。動揺する彼女に、僕は優しく声をかけた。 想いを伝えたい。 僕はこの不思議なスマホについてを話した。それから、僕が少しずつ魅かれていったことを。 「ずっと見ていたんだ、君のことを」 腕を振り上げた彼女が映し出された直後、画面は粉々にひび割れた。

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気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…… ヒビの入ったスマホから聞こえてくる呪詛の様な呟き。それは僕の神経をゆっくり麻痺させてゆく。 デンパニナッテトンデユキタイ…… 光の粒子がスマホのヒビに吸い込まれて消えた。 キャァーーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎ そして聞こえた彼女のヒメイ。ああ、シアワセダ……

ゆりあ

10年前

- 完 -