甘いカレーと200文字についての論考

200文字って書いてみると予想以上にに少ないものですね。本当は書きたいことがその何倍もあるのにそれを載せられるのは200文字以内。ではどうしたらいいかといえば200文字の中で密度をあげるしかありません。でもそうすると次の人が書きにくい、なんてことが起こったりします。そこは個人のセンスなのでしょうが自分と似たような思考の人が自分の書いた文章を読む確率はかなり低くなってしまいます。だからといって文字数

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を増やすかといったら、そうではないのです。誰だってただ長い文章を読むのは疲れるし、飽きてしまいます。私だったら既に見た目で判断するでしょう。ただただ長くても読む気が失せる、短くて密度が高くても理解が出来なければ意味がない。200文字、これが文章のパラグラフの限界。ならば、そこで見た目にも密度的にも読みやすくしたいというのが私的結論です。例えば、話し「」を多くいれてみましょう。読んでみると、とっても

unkown

7年前

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すかすかで、密度が薄く感じます。 「200字って、多いようで少ないよね」 「うん」 「少ないようでそれを埋めるのに一苦労したり、逆に…」 「あと3字削るのにどうしようか、とえらく時間がかかったりする」 「思い切った推敲が必要だ」 「それはそうと今日の昼飯何にする?」 「話が飛んだね」 「俺はココイチに行きたい」 「会話の内容も薄い」 「とんかつカレー食いたい」 多少地の文を挟みたいところですが、

Utubo

7年前

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それには作者の力量が問われます。 「やっぱチキンカレーがいい」 と彼は笑った。と書いたとして、ただ台詞を減らせという問題ではありません。気付けば登場人物は微笑み頬を赤く染めるばかりという描写のレパートリーの少なさを逆に露呈してしまいます。そこはやはり起承転結の具合を鑑みつつ台詞を取捨選択しなければならない、まさに苦行。思いの通りに筆は進まず、思いの丈に力及ばず、いっそ執筆を破棄してしまおうかと思い

kam

7年前

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いや、でも待てよと思いあぐねるうちに、4パラまでのスムーズなバトン渡しを台無しにしてしまう3ヶ月もの長すぎる幕間。だから要は、200文字の内容を煮詰めて最高の形で出力したいというクオリティ志向と、ノベル自体の鮮度を大切にするスピード志向がぶつかり合うわけです。多くの人は良い塩梅で妥協点を見つけますが、中にはバランスの取り方が不味い私みたいな執筆者も居ますね。 「まあ、カレーを食べて落ち着きなさい」

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カレーが甘い──────。

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原稿に突き立てていた万年筆、カレーを口へと運搬したスプーン。その両方が、私の手から滑り落ちた。 私はいつもと同じカレーを注文したはずだ。しかし、期待していた辛さとは凡そ逆ベクトルの甘ったるさ。これは如何に。 不意の甘みに呆然とする私の顔を見て、既にカレーを完食した田中と、カレーを運んできた店員が、満足げに笑う。 「作家志望だとしても、飯食う時ぐらいは書くの止めろよな」 田中は得意げに指摘する。

歴生

7年前

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私は満面の笑みを浮かべる田中に一瞥もくれず、店員が注いだばかりの水を一気に飲み干した。いや、彼の顔を見れるわけがない。 「どうよ?田中特製べりーすいーとかりーのお味は?」 …甘い。甘過ぎる。 ただこの甘さが、口の中だけでない事も、特製カレーのせいではない事も、私はとっくに気がついていた。 この、私の“真ん中”にある恐ろしい程の甘ったるさをたった200文字で表すには、あまりにも不器用過ぎた。

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全ては200文字のバトン。 どこを削るのか、削りすぎて無味無臭な文になるか、詰めすぎてバトンをふいにするか。 私は悩む。 200文字。改行。バトン。200文字。田中。チキンカレー。甘いとんかつチャーハン密度、ココイチ宇宙200文字200文字200文字――!! 「楽しければいいのでは? あとこのカレーは不味い」 そう答え次のパラを探すべく、カレーを食いながら更新ボタンを押したのであった。

Aonami

6年前

- 完 -