パックの牛乳をストローで飲みながら、あんぱんを頬張る。 私にとって、それが一番の幸せだ。 なのに。それなのに。 「なんでお前が食おうとしてんだ!!!」 ベンチの上、我がもの顏で私のあんぱんを食べようとする、カラスがいた。 これは、とある女子高校生と、一匹のカラスの、戦いの物語である。
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「私のあんぱんよ! 今すぐ返しなさい!」 叫びながら手を伸ばす。が、カラスはあんぱんを器用に袋ごと咥えて逃げだした。 そのまま木の枝に止まり、こちらを見下ろしてくる。 「へえ……いい度胸じゃないの……」 このカラスめ…許さん! 私はカラスを徹底的に懲らしめるため、カバンから機関銃を取り出す。 「人間の恐ろしさ、たっぷり教えちゃうんだから……!」 さあ。 戦争だ。
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「ほらほらほらほらほらほらぁ‼︎どうしたの?どうしたのおバカなカラスさん?さっきまでの余裕はどこに行ったのかしら!?」 静かな午後のランチタイムに、激しい銃声が響き渡る。まわりにいる学生たちはこの日常に慣れているため、こちらを見ても見てないフリをするだけだった。 私は更に引き金を引き続ける。 「私のあんぱんを•••私の幸せを!とっとと返しやがれこのカラス野郎がぁ‼︎うらあああああっ‼︎」
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数打ちゃ当たるとBB弾を乱発するも、カラスは悠々と避けていく。鳥類は獲物を狙う時、先を予測して攻撃するというから、BB弾の速度などお茶の子さいさいなのかもしれない。 BB弾が壁や床を跳ねるほど、乾いた音がパチンコ店のように響き渡る。 「チィッ‼︎」 舌打ちすると、苛立った私を嘲笑うようして、カラスがカァーと鳴き声をあげた。 それと同時に昼休みの終了を告げるチャイムが学校を震わせた。
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キーンコーン♪カーンコーン♪ チャイムは無情にも終了を告げ、私に負けを認めるよう要求してくる。目的はまだ果たしていないのに! でも鐘の音に気を取られていたら── カラスが私の頭にボディプレスをかましてきた! 意外なほどの質量を備えた胴体から繰り出された攻撃が、頭頂部にクリティカルヒットする。 「…この畜生がああぁッ!」 ブチ切れた私は、第二兵器をカバンから取り出した。 さあ、延長戦だ。
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取り出したのは職員室から借りてきた、対暴漢用ネットランチャー。 柄の所のボタンを押すと、前方からネットが発射される代物だ。 これは正直使いたくはなかった。 これは、一度使用すると、二度と使用できない。 しかも、値段が1本1万円ぐらいするらしく、今までも使った後で先生から請求書が回って来ている。 だが、今はあの宿敵を仕留める事が私の使命! チャンスを見計らって…今だ! Fire‼︎‼︎‼︎
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ふっふっふ…。 今までに何十本もネットランチャーを消費してきた私に狂いなどないのだよ。名もなきカラスよ、貴様はよくやった。だがな、それもここで終わりだあぁぁっ!! 勢いよく放たれたネットは、確実にカラスを仕留める。 「っしゃあぁぁっ!捕獲成功!」 「…成瀬さん。これはどういうつもりですか」 ネットの中から聞こえてきたのは学年主任の声だった。 あれ? 見ると、カラスと共に学年主任を捕獲していた。
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これはまずい。 カツラが…ネットに絡まって、大変な事に。 そして怒り心頭の学年主任。 「 」ごくん 「…成瀬さん、このネットを外して今すぐに生活指導室へ来なさい。」 「せ…先生!これはそのカラスが悪いん「この状況になってもそう言いますか?」 カラスはしたり顔でこちらを見ている。 勿論、あんぱんは口に咥えたまま。 このままでは……だめだ! 私の中のあんぱん愛が、ネットを外す手を止めた。
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あんぱんを取り返すという大切な使命が‼︎ こうなったら ネットを外す振りをしながら、カラスに近寄り 「とうっ‼︎」 自分に出せる最高速度でネットの網目に手を突っ込み、カラスからあんぱんを奪う よし‼︎作戦完了だ‼︎ 私はその場であんぱんを頬張る はっはっは‼︎勝利の美酒は何とも美味なことか‼︎ その後、カツラが激しく損傷した学年主任にこってり絞られたのは言うまでもない… …ああ、今日も平和でした
- 完 -