~2013夏フェス参加作品。テーマ「ホラー」~ 童謡を唄う女がいる。 『小さい秋、小さい秋、みいつけた』 み い つ け た 髪は顔を隠す程長く、腕にはぬいぐるみ。 本来、童謡は怪異を含んでいる。それは、子どもを惹きつけるためなのか、それとも。 柳の下で、私は女に"見つけられて"しまった。
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女の長い髪が、かすかな風になびいていた。 『だぁれかさんが、だぁれかさんが、だぁれかさんが』 み い つ け た もし柳の下で歌声を聞いたら、絶対に返事をしてはいけないよ。 村に住む私たちは、幼い頃からそう言い聞かされて育った。けれど真相は誰も教えてくれないままだった。 女の目は黒曜石のようだった。 くろぐろと、炯炯と、ひかる。 私を見る。 『目隠し鬼さん、手のなる方へ━━』
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その女の硝子の様な黒く鋭く光る目から私は、目を逸らす事が出来ない。 身体が勝手に引き寄せられていく。 今、女の顔が直ぐ目の前にきた! 「一緒に遊ぼう...」 『すました おみみに かすかに しみた』 絶対に返事をしてはいけない... でも、何故? 返事をしたらどうなるの... 理由は誰も教えてはくれない。 返事をしてみようか... 『よんでる くちぶえ もずの こえ』
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『おへやはきたむき くもりのがらす』 歌う女の、黒曜石の黒い闇の目からは涙が溢れていた。 ──誰かに続きを歌ってもらいたかっただけなのかもしれない。 そう思った私は、『うつろな目の色溶かした……』 最後まで歌わせてくれなかった。それまではっきりとみえなかった女の口が大きく開き、私はその口に吸い込まれた。 『小さい秋、 小さい秋、 ……
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み ぃ つ け た ぁ 「いやぁあああ‼」 叫び声は喉の奥で鳴っただけ。 「……ここ、どこ?」 私は知らない神社の境内にいる。すると目の前に女の子が立っていた。 「一緒に遊ぼう、お歌を歌って」 小首を傾げられる。手もしっかりと握られている。歯が震えてカチカチ鳴った。 「歌って?」 恐くて頷いた。 「ち…小さい秋、小さい秋…みぃつけた…誰かさんが……ヒッ」 女の子の目が異様に大きくなった。
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「ちゃんと歌って? よく聞こえないよ」 声色は変わってない。変わってないからこそ、おぞましい形相の女の子との違和感で悪寒が走る。目が。目が。ずっとこちらを見ている。視線が。視線が。黒々した瞳のような何かが私を覆っている。 逃げたい。繋いだ手を離したい。でも強張った体は言うことを聞かずにガクガク震えるだけ。女の子はその手を見るなり、 「み い つ け た」 少女とは思えない、低く冷たい声だった。
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子供達が歌う声が聞こえる。 あぁ、私は気を失って…! 気を失う前のあの光景を思い出し戦慄する。が、目覚めて見るこの景色はあの境内なのか。私は夢を見ていたのではないかと思うほどののどかさである。 夕日差す境内に歌いながら追いかけっこをする子供達。 目覚めた私を誘いに来る。私は立ち上がる。が、変だ。 私以外に影がない。秋の夕暮れの長い影。 秋を背負っているのは私だけ… 子供達が一斉に笑う みぃつけた
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みぃつけた。みーつけた。見つけた。 見つけた、見つけた、見つけた、 見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!! 大勢の指がさすその先には、私の影。 『むかしの むかしの かざみの とりの ぼやけた とさかに はぜのは ひとつ』 歌が聞こえ、ざぁ、と風が吹いて、木の葉が飛んで、目を閉じた。 しん、と風が止み目を開ければ、子供たちが輪になり私を囲んでいた。
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『はぜのは あかくて いりひいろ』 ちいさいあき ちいさいあき ちいさいあき みつけた 重なる歌声の中、入り日と共に子供たちの姿が透けていく。家に帰るように消えていく。 やがて境内は私だけになった。よろける足を無理矢理動かして何とか帰路に着く。 見覚えのある道に来た頃だった。 『おうたがたりないよ』 一陣の風が吹き、あの黒い瞳のような闇夜に私は呑み込まれた。 わずかな すきから あきのかぜ
- 完 -