悪い子はここで遊べます。
【よいこはここであそんではいけません】
看板を見上げて、小さく声に出して読んでみる。
「あんたみたいな悪い子はもう知らない」
今日僕は悪い子になったからここに居ていいのかな。聞きたくてもお母さんはいない。悪い子になった僕はお母さんの後ろ姿しか思い出せない。ぎゅっと手を握って一歩踏み出した。
「お邪魔します」
薄暗い駐車場には中学生くらいのお姉さんがいた。
「お、お姉さんも悪い子なの?」
- 1 -
お姉さんはニコリ、と笑った。
「…そうだね。坊やも、悪い子?」
どうしてだろう、ゾクっとした。
お姉さんのその笑顔からは、言いようもないような気味の悪さを感じる。
「う、うん。お母さんに、言われたの」
お姉さんはニコリとしたまま僕を見つめている。そこで僕は違和感に気づいた。
このお姉さん…
「坊やは、お母さんが、憎い?」
このお姉さんには…
「じゃあ、殺しちゃえ」
足が無い。
- 2 -
すーっと足元が寒くなる。目の前の光景が現実感を失い、歪み、淀み、捲れあがる不気味な感覚が脳みそを鷲掴みにした。
「ぼ……僕、やっぱり帰らなきゃ……」
言って踵を返した。が、駐車場の入り口は無くなりコンクリートの壁になっていた。
「坊やはどんな物が好み?」
お姉さんの周りには色々なモノが浮いていた。刀、金槌、ペン、バット……
「どれでも好きな物をあげる」
お姉さんは静かに冷たく笑った。
- 3 -
僕は動くことができずに、ただ
そこに立ち尽くしていた。
「坊や、悪い子っていうのはね、
悪いこと、自由にできるの。」
お姉さんはそういって
胸元のポケットから小銃を出した。
バッキューン
近くにいた野良猫が倒れた。
「生き物が弱っていく姿って
素晴らしいものなのよ …‼︎
私は、それに気付いたの、私は
強いのよ ‼︎」
僕は震えた。
恐怖に震えた。
お姉さんの顔を見ることも
出来なかった。
- 4 -
…僕は、気がついた時には、自分の家の玄関前にいた。
目線を右手に向けると、夕日の光を浴びて鈍い光を放つバットが握られていて、僕の左隣を見ると、お姉さんが口元を僅かに歪めて不気味に僕を見ていた。
「それなら、子どもの力でも頑張れば殺せるね」
そう、僕は恐怖に背を押され、これを選んでしまったのだ…選ばなければ、僕が…。
お姉さんはドアに近づいて直ぐにこちらを向いた。
「開いたよ」
とても嬉しそうに。
- 5 -
僕の手は震えていた。
このバットを今すぐ離したい。
離そうとしても離れない。
離そうとすればするほど、力は強くなっていく。
体は、硬直して逃げ出すこともできない。
隣を見た。
お姉ちゃんは、ニッコリ。
「どうしたの?」
嫌な微笑み。
風が吹く。
強い風。
目をつぶって強く願う。
これは夢、これは夢、これは…
「現実だよ?」
ニコリ
耳元でささやかれた。
「さぁ、いって」
僕は、ゆっくりと歩き出す。
- 6 -
玄関を入るとフローリングの廊下。
奥は台所。
包丁とまな板のあたる音がする。
僕の足は僕の意思とは裏腹に一歩、また一歩と前に進む。
台所のドアの隙間からはエプロンをつけたお母さんの姿が見えた。
今日の夜ご飯を作ってるみたい。
「坊や、ちょうどよかったね。お母さんは今料理に夢中だから、後ろから忍びよってそれを頭に当てればすぐに殺せるよ…。怖がらないで…ほら、ノブに手をかけて…。」
お姉さんは笑う。
- 7 -
「あら、おかえり」
料理に夢中なはずのお母さんはすぐ僕に気がついた。なんでわかったんだろう。
僕の耳元でお姉さんは急かす。
「大丈夫、まだそれには気付いてないよ。ほら、早く行って、それを思い切り振り上げて…」
お母さんは振り向かずにこう言った。
「今日はあんたの好きなハンバーグよ」
思い出した。
お母さんの笑った顔。
だけど僕は、悪い子だから。
バットを振り上げる。
お姉さんに向かって。
- 8 -
「お母さん、今日の御飯はハンバーグなんだね?...僕大好き。」 ぶんっ... ぐちゃっ
「いただきまぁーす!お姉さんもどうぞ!
1人じゃこんなに食べられないし!」
「なぁ坊やうまいだろぅ?忘れられないだろ‼︎この味‼︎」
...明 日 は だれ の ハンバーグ を たべる?
- 完 -
作品情報
悪い子はここで遊べます。
#16116
- リレー期間
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4ヶ月