悪い子はここで遊べます。

【よいこはここであそんではいけません】 看板を見上げて、小さく声に出して読んでみる。 「あんたみたいな悪い子はもう知らない」 今日僕は悪い子になったからここに居ていいのかな。聞きたくてもお母さんはいない。悪い子になった僕はお母さんの後ろ姿しか思い出せない。ぎゅっと手を握って一歩踏み出した。 「お邪魔します」 薄暗い駐車場には中学生くらいのお姉さんがいた。 「お、お姉さんも悪い子なの?」

makino

11年前

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お姉さんはニコリ、と笑った。 「…そうだね。坊やも、悪い子?」 どうしてだろう、ゾクっとした。 お姉さんのその笑顔からは、言いようもないような気味の悪さを感じる。 「う、うん。お母さんに、言われたの」 お姉さんはニコリとしたまま僕を見つめている。そこで僕は違和感に気づいた。 このお姉さん… 「坊やは、お母さんが、憎い?」 このお姉さんには… 「じゃあ、殺しちゃえ」 足が無い。

syan

11年前

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すーっと足元が寒くなる。目の前の光景が現実感を失い、歪み、淀み、捲れあがる不気味な感覚が脳みそを鷲掴みにした。 「ぼ……僕、やっぱり帰らなきゃ……」 言って踵を返した。が、駐車場の入り口は無くなりコンクリートの壁になっていた。 「坊やはどんな物が好み?」 お姉さんの周りには色々なモノが浮いていた。刀、金槌、ペン、バット…… 「どれでも好きな物をあげる」 お姉さんは静かに冷たく笑った。

KELL

11年前

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僕は動くことができずに、ただ そこに立ち尽くしていた。 「坊や、悪い子っていうのはね、 悪いこと、自由にできるの。」 お姉さんはそういって 胸元のポケットから小銃を出した。 バッキューン 近くにいた野良猫が倒れた。 「生き物が弱っていく姿って 素晴らしいものなのよ …‼︎ 私は、それに気付いたの、私は 強いのよ ‼︎」 僕は震えた。 恐怖に震えた。 お姉さんの顔を見ることも 出来なかった。

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…僕は、気がついた時には、自分の家の玄関前にいた。 目線を右手に向けると、夕日の光を浴びて鈍い光を放つバットが握られていて、僕の左隣を見ると、お姉さんが口元を僅かに歪めて不気味に僕を見ていた。 「それなら、子どもの力でも頑張れば殺せるね」 そう、僕は恐怖に背を押され、これを選んでしまったのだ…選ばなければ、僕が…。 お姉さんはドアに近づいて直ぐにこちらを向いた。 「開いたよ」 とても嬉しそうに。

竹原ヒロ

11年前

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僕の手は震えていた。 このバットを今すぐ離したい。 離そうとしても離れない。 離そうとすればするほど、力は強くなっていく。 体は、硬直して逃げ出すこともできない。 隣を見た。 お姉ちゃんは、ニッコリ。 「どうしたの?」 嫌な微笑み。 風が吹く。 強い風。 目をつぶって強く願う。 これは夢、これは夢、これは… 「現実だよ?」 ニコリ 耳元でささやかれた。 「さぁ、いって」 僕は、ゆっくりと歩き出す。

noname

11年前

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玄関を入るとフローリングの廊下。 奥は台所。 包丁とまな板のあたる音がする。 僕の足は僕の意思とは裏腹に一歩、また一歩と前に進む。 台所のドアの隙間からはエプロンをつけたお母さんの姿が見えた。 今日の夜ご飯を作ってるみたい。 「坊や、ちょうどよかったね。お母さんは今料理に夢中だから、後ろから忍びよってそれを頭に当てればすぐに殺せるよ…。怖がらないで…ほら、ノブに手をかけて…。」 お姉さんは笑う。

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「あら、おかえり」 料理に夢中なはずのお母さんはすぐ僕に気がついた。なんでわかったんだろう。 僕の耳元でお姉さんは急かす。 「大丈夫、まだそれには気付いてないよ。ほら、早く行って、それを思い切り振り上げて…」 お母さんは振り向かずにこう言った。 「今日はあんたの好きなハンバーグよ」 思い出した。 お母さんの笑った顔。 だけど僕は、悪い子だから。 バットを振り上げる。 お姉さんに向かって。

lalalacco

11年前

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「お母さん、今日の御飯はハンバーグなんだね?...僕大好き。」 ぶんっ... ぐちゃっ 「いただきまぁーす!お姉さんもどうぞ! 1人じゃこんなに食べられないし!」 「なぁ坊やうまいだろぅ?忘れられないだろ‼︎この味‼︎」 ...明 日 は だれ の ハンバーグ を たべる?

電子音

11年前

- 完 -