終わりのないゲーム
「俺、なんか二日後に死ぬみたい」
「………へえ、なるほど」
それ以外に、なんと返事が出来ようか。
「まあ、元気でいろよ」
「あ、信じてないなその様子だと」
「話に真剣味が無いからな」
「あと二日経てば分かるよ」
まあでも、と一旦間を置いて、彼はこう付け加えた。
「端から見たら、分からないかもな」
何のこっちゃ、と思った。
これが二日前、二人でお昼を食べている最中の短い会話の内容である。
- 1 -
「なあんだ、ぴんぴんしているじゃあないか」
俺は呑気な友の顔を見て苦笑した。内容が内容だけに少し気になった俺は、こいつの家を訪れたのだが、まんまと騙されたようだ
「失礼な奴だな、人に会うなり」彼は不機嫌そうに俺を睨んだ「俺が元気じゃ悪いか」
「死ぬだのなんだのはどうしたんだよ」
「死ぬだあ?なんだそれ」
やはりあの場限りの冗談だったらしい。しかしあの会話について全く覚えていないのは少し気にかかった
- 2 -
「そういえば、お前何か変わったよなぁ。」
お昼ご飯を一緒に食べながらふとそう呟けば、
「……は?」
予想以上に睨まれた。そこまで怒ることないじゃないか。
「いや、中学の時はもっと硬派ー!って感じだったのになと思って。」
場の空気の悪さに耐えられず明るく言うと、
「…そういう事か。高校デビューってやつだよバーカ。」
あからさまに安心するもんだから、2日前の発言を深読みしそうになって、辞めた。
- 3 -
それにしても今日は何を話しても盛り上がらない。
「ゲームやろうぜ」
食べ終わると俺はそう言って、勝手に電源を入れた。
彼のプレイは驚く程下手になっていた。
見ると、指の関節がどれも妙に蒼みをおびている。
「どうしたんだよそれ…突き指か?」
「あ? ああ、突き指だ」
まじか。全部の指を突き指って…
ふいに襖がトンと鳴った。
屋敷と呼びたくなるような彼の家は、相当古い。
その襖の隙間から、人の目。
- 4 -
その目は次第に増えていきおびただしい数に達した。細い隙間を埋め尽くすように、闇に浮かぶ数百の目。突然の恐怖に体が震え出す。俺は言葉すら発することができないまま、そこから目を逸らせずにいた。
「見ないふり、してろ」
友人の声がかろうじて耳に入る。
「……あ?」
「落ち着いて、ゲームを続けるんだ」
俺の指先が痛み始める。
「いいかよく聞け。深淵を覗き込む時、深淵の方もこっちを覗いているんだ」
- 5 -
覗かれている。
その言葉を聞いて、少しずつ、ゆっくりと首をテレビに戻す。心臓が痛いくらいに高鳴っていた。
指先の痛みは広がってゆく。
友人は、淡々とゲームをしていた。
その顔からは表情が読めない。
真っ直ぐにテレビだけを見ていた。
「…お、い」
乾いた口から、絞り出すように声を出す。
友人はこちらを振り向かず、答える。
「なんだ」
「なんだ…あれ」
「母さん」
「…は?」
- 6 -
母さん…って…
この、状況でなにを言ってんだ…
『おい…』
『なんだよ!』そう言って後悔した。
まず、声が違うだろ…声が。
メ ガ ア ッ タ。
終わった。
- 7 -
「見ない振りしろって言ったろ?」
記憶にない声がせせら笑う。友人のはずの男はこちらを見ていなかった。
「やっと深淵から出られたんだ。俺はもう戻りたくない」
たどたどしいとも言える手つきでコントローラーを操る友人と、なぜか床に這いつくばる俺が見えた。足が引かれる。
「母さんによろしく。お前の代わりに出てくる奴、きっと俺の母さんじゃないからさ」
- 8 -
以来、「俺」は部屋でゲームを続けている。
ゲームに終わりはない。ゲームクリアも、ゲームオーバーもこの空間には存在しないのだ。
俺は「母さん」と呼ぶ深淵の中で、生気もなく、ゲームをし続けている「俺」の姿をただ見つめている。
別の憑依対象が現れないことには、俺は襖の隙間から出られられないのだ。
時折、友人のことを恨みたくなる。
なぜ、俺を誘ったのか。このゲーム、相当ハマってしまうじゃないか。
- 完 -
作品情報
終わりのないゲーム
#2855
- リレー期間
-
8ヶ月