家族

イメージクラブ、略してイメクラ。 某繁華街の一角にある、ここ「ファミレス」は、そんなイメクラの一つである。 客は夜な夜な、ここへ「家族」を求めやってくる。それは性的欲求に限ったものではない。時に母、時に妹、娘、父や兄でさえ。ここには貴方の望む家族が用意されているのだ。 「いらっしゃいませ、どの家族がご希望ですか?」 今日も孤独な客がやってきた。

けあき

12年前

- 1 -

芹沢 恭夏、中学2年生。家出をして今この場所にいる。 「どの家族がご希望ですか?」 「兄を」 家出をしたのは去年両親が離婚し、母方に引き取られた兄の交通事故死の報せを受けたからだ。罪悪感と後悔が私をここへ連れてきたのだ。兄と離れ離れになることが嫌で駄々をこねた私は兄に酷い事を言って別れたから、今更私は兄に謝罪をしにきたのだ。 私の自己満足でしかないけれど。 「泣くな恭夏」 さよなら、兄さん。

絢咲みさ

12年前

- 2 -

三河 辰也、24歳。就活途中、この場所にいる。 「どの家族がご希望ですか?」 「父さん…父を」 父さんは随分前に他界していた。母さんが女手ひとつで必死にここまで育ててくれた。そんな母も数日前に倒れた。ただの過労だが、これ以上母に頼ってはいけない。これから大手企業に面接に行く。 最後にどうしても「父さん」に言って欲しいのだ。 「頑張ってこい」 頭を撫でる温もりを確かめながら。

yuta

12年前

- 3 -

杜下 晴彦、29歳。 彼女いない歴=年齢。職業、自宅警備員。 何だかソワソワしつつ、ここに居る。 「どの家族が、ご希望ですか?」 「い、妹を」 暇さえ有ればMMORPG(ネットゲーム)をやっている。そのサーバの中では、名前が知れている、ちょっとした有名人だ。 しかし、現実には得意な事が何もなく、ファッションにすら興味が無い。 「お兄ちゃん。がんばろ?」 ホンの少しの勇気を貰った。

響 次郎

12年前

- 4 -

松野 美也、23歳。独身、妊娠4ヶ月。 「どの家族がご希望ですか?」 「母をお願いします」 幼い頃、両親は離婚。父は再婚し継母との間に子供もできた。美也は家に居辛くなり就職と同時に一人暮らしを始めた。その矢先に実母が病気で急逝したと報せを受けた。 悲しさと孤独を紛らわせるために会社の上司と不倫…妊娠。産もうと決心した。 「美也、大丈夫よ」 母さん、私と産まれる赤ちゃんを見守っていてください。

Noel

12年前

- 5 -

高山 悠人、6歳。小学1年生。 「どの家族が、ご希望ですか?」 「マルに会わせてください」 僕が生まれた日に家にやってきた、柴犬のマル。病気で突然死んでしまった。 いつも一緒にいたのに。たくさん遊んだのに。言葉はわからなくても、君のきもちはわかるよ。今日から小学生。友達、できるかな。僕、すごく不安だよ。 「ワン!」 マルがしっぽを振りながら、僕のほっぺを舐めてくれた。

meg

12年前

- 6 -

古森 鈴子、32歳。 「どの家族がご希望ですか?」 「……祖母を」 介護疲れ。認知症を患った祖母は、ほんの数年前までかくしゃくと家事をこなしていたのが嘘のようだ。徘徊、妄言、暴力。作った料理はひっくり返され、呼びつけられては怒鳴られて。穏やかだった祖母は、もうどこにもいない。 それでも、たった一人の身内だから。 「鈴ちゃん、いつも世話をかけるねえ」 おばあちゃん、明日も私がごはん作るからね。

lalalacco

12年前

- 7 -

「これでいいんでしょうか」 先ほどまで兄であった青年がぽつりと呟いた。 店じまいのファミレス。従業員たちがぽつりぽつりと座っている。 「人に安らぎを与えてるんだもの、いいのよ」 母であった女は既に帰り支度を済ませていた。 「私たちはオーナーに従うだけだよ」 父であった男が青年の方を叩く。その横で、妹であった少女は首を傾げた。 「でも、オーナーは誰かに会いたくないの?」

hituzi

12年前

- 8 -

少女の問いかけにどう答えたらよいのかと、男と女と青年は、それぞれ戸惑いの表情を浮かべ互いの顔を見た。 オーナーが何者なのか、この少女だけが知らない。 少女とその母親を捨てた父親が、オーナーなのだということを…。 オーナーは自分のした事を後悔しながら今も一人きりで生活している。そしてそれが、この店を始めた理由だった。 男が少女に聞いた。「マミちゃんは、会いたい人いる?」少女は頷いて答えた。「パパ!」

マーチン

12年前

- 完 -