昔々ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。 おばあさんが川で洗濯をしていると川の上の方から大きな桃が流れてきました。 おばあさんは桃を持ち帰り、おじいさんが帰って来ると桃を切りました。 が、ただの大きな桃でした。 桃太郎が鬼退治をするはずだった事を知っていたおじいさんは焦りました。 このままでは未来が変わってしまう!
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しかし、おばあさんがなだめました。 「きっと今日じゃないんですよ。また別の日に赤ん坊入りの桃が流れてくるんでしょう」 そうかと納得し、結局大きな桃は2人の胃の中に収まりました。 その次の日、鬼達が食べ過ぎで休んでいた2人を狙って乗り込んで来ました。 「桃太郎が育てば我々に未来は無い。運命を変えるのだ!」 2人は慌てて逃げ出しました。そして逃げた先の川で、大きな桃が流れているのを発見しました。
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いかにも桃太郎が入っていそうです。「よし、あれを切ろう!」とおじいさん。さっそく常備していた木刀を取り出し、流れてきた桃をスパンと切りました。 しかし、中には何も入っていません。その桃もやはりただの桃だったのです!おじいさんは落胆しました。 そうこうしている間に、鬼達が二人に追いついてしまいました。 「ガハハハハ!桃太郎は必ずや我々が処分してやるぞ!」 鬼達は金棒を振り回して二人に襲いかかります。
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「ちょっと待っておくれ。」 とおじいさんはか弱そうな声で言いました。 「桃太郎なら、つい先日生まれて、さっそく鬼退治に向かっておる。だから、わしらを捕らえたところでむだじゃ。」 おじいさんは勇気を振り絞って、一生分の嘘をつきました。 すると、それなら早く戻って財宝を隠さねばと鬼達は急いで帰っていきました。案外、鬼達はピュアのようです。 これでしばらくの間時間稼ぎができると、二人は一安心しました。
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鬼ヶ島に戻った鬼達は財宝を隠し、桃太郎が来るのを待ち構えました。 けれど待てども待てども桃太郎は現れません。 そんな中で、一人の鬼が言いました。 「そういえば、桃太郎は仲間を集めるはずだ。もしかしたら今はまだ仲間を集めているのかもしれん」 それを聞いた鬼達は鬼ヶ島を出て桃太郎とその仲間を探し始めました。 しかし桃太郎を育てる老夫婦は姿を消しており見つからず、なんの成果も得られませんでした
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その頃、仲間達も桃太郎を待ちかねていました。 桃太郎のためにお宝探知能力を習得した犬は、花さか爺さんに貰われていきました。 きびだんごが食べられないことに業を煮やした猿は、蟹のおにぎりを奪いにいきました。 雉は一人ぼっちになりました。 そこへ鬼が現れ、桃太郎の行方を雉に尋ねました。 「本当に知らないんですよう。きっと桃に入る段階で事故があったに違いありません。だから雉鍋だけは勘弁してください」
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一方、桃太郎の育て親(仮)の老夫婦のもとにはとある客が訪ねておりました。 「私は月夜かぐや。讃岐のG氏に竹林で拾われるはずが、花咲のG氏に育てられました」 ……そのせいで貴公子や帝の求婚という女の一大イベントを逃しちゃったのよーー!!どーしてくれるの?!こーなったのも全て桃太郎が悪いのよ!!ちゃんと責任とってくれるまで、私、ここから帰らないから!! かぐやちゃんは積年の愚痴を吐き続けます。
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そんなこと言われても。かぐやちゃんとは関係ないじゃないか。 桃太郎の育て親(仮)の老夫婦は、困りました。 そして、いいことを思いつきました。 「それじゃかぐやちゃん。私たちの家にいていいから、一つしてほしいことがあるの」 「本当にいていいんですか!?あ、でも、してほしいことってなんですか?」 どうやらかぐやちゃんもあんなに言ってしまったことを気にしているようです。 「桃太郎になって欲しいの」
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それからというもののかぐやはバッサリと短く切った黒髪をなびかせて隠れ持った剣の才能を開花させ、泣きべそをかいていた雉を連れて無事鬼をこらしめ金銀財宝を守り抜きおじいさんとおばあさんと一緒に桃太郎を待つと言う名目で仲睦まじく暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。 そうそう、かぐやを育てるはずだった讃岐のG氏の切った光る竹からは、それはそれはたいそう元気な男の子が出てきたとか、出てこないとか。
- 完 -