名波さんの須山君観察記録

最近妙に避けられてる気がする。

「消しゴム、落としたぞ」
「へあっ!? あ、ありがとう……」

顔赤いな。熱でもあるのか?

「ほい、担任から名波さんの課題ノート預かったから」
「あ、ありがとう……」

なんかソワソワしてるな。どうしたんだ?

「日誌、俺がつけとくから」
「う、うん。ありがとぅ……」

目、逸らされた。ちょっと傷つくな。

名波さんは、今日も俺を避けている。
何故なんだ?

nameless

- 1 -

放課後、日誌を担任に提出した後教室に戻ると名波さんがいた。窓側の席でうたた寝をしている。日直の仕事を全部やってしまったから、申し訳なくなって待ってたのか?
まさか。最近、避けられてるし。

起こしてやらなきゃ、ずっと寝たままになるだろうし、無視するのもよくない。
今以上に嫌われることはないだろ。
名波さんの席に近付き声をかける。寝息しか聞こえない。仕方なく肩を叩こうと手を肩に…

「ひゃあ!」

- 2 -

背中を大きく震わせた名波さんは、まるでバネ仕掛けの人形みたいに跳ね起きた。

「ゴ、ゴメン驚かすつもりは──痛ってッ!」

名波さんが寝起きの勢いで、机の下から脚を前に放り出すもんだから、俺の脛に蹴りが直撃する。

「あぅ…須山くん大丈夫?」

混乱が一回りして、ようやく名波さんがこっちを向いた。

…でもその瞬間。
枕の代わりになっていた本が丸見えになって、俺の心臓はドキリとする。

おやぶん

- 3 -

『須山くんノート』

確かに、そこにはそう書いてあった。小さな丸文字で、丁寧に。

「えっ……須山くん、えっえっ、あれ!?」

俺の視線に気づいた名波さんが、すごい勢いで慌てた。みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。

「うぅ」

涙目になって、ノートを腕で隠す名波さん。そのまま気まずそうに黙り込んでしまう。俺もなんと言えばいいのか分からず、立ち尽くす。

こんなときどうすればいいんだ……。

虹のコヨーテ

- 4 -

「これ、と、友達に書かれただけなの! 表紙恥ずかしいけど、ふ、普通の勉強用に使ってるからさ!」
切れ切れに言う名波さんは一切僕の顔を見ない。やっぱり嫌われているのだろうか。
「そうなんだn…」
「やっぱり無理な言い訳よね…」
納得しかけた僕の言葉を遮るようにして、名波さんは立ち上がった。こちらをしっかりと見据えて。

「須山君のこと好きでした。付き合ってください」
僕には何が何やらわからない。

Dangerous

- 5 -

「えっ⁉︎」
「あ、あの!須山君のことが…ずっと、好きだったの。」
「……そう、だったんだ。」
「う、うん。」
僕は驚きを隠せなかった。

けど、それ以上になんか安心した。
「僕、ずっと嫌われてると思ってた。」
「えっ⁉︎なんで?」
「いやだって、最近避けられてる気がしてたから。」
「ご、ごめんなさい。…私、その、恥ずかしくって。」
「ううん。…なんかうれしい。」

2人で顔を見合わせて笑った。

- 6 -

そうして円満に付き合い始めた。
…はずだったが。

「あ、え、あの、ごめんなさい…っ!」
朝待ち合わせて学校へ行こうと誘ったが、断られてしまった。
「え、あ、その。いやこちらこそごめん」
何だかよくわからないけど、涙目になって謝られたのでこちらも反射的に謝ってしまう。

じゃあ帰り道一緒に帰ろうと誘うと、習い事があるから、とか。その日は友達と約束が、とか。

もしかして、やっぱり避けられてないか?

- 7 -

名波さんと恋人になったんだ、と自覚できるのは目が合う一瞬だけ。
登下校は別々で、休み時間も昼休みも別々。付き合う以前と変わらない生活が続いているけれど、授業中や放課後に時々視線がぶつかる。
目が合うとすぐに逸らされてしまうので、名波さんの真意は分からない。
僕たちの関係は確かに変わったんだ。だけど、名波さんはもう僕を好きじゃないのかな。
ちゃんと話せないまま、僕たちの日直当番が回ってきた。

波多海

- 8 -

「名波さん。やっぱり僕のこと、避けてない?」
「避けて、ないけど……」
よし、もうこうなったら言いたいことを全部言おう。
「名波さん、俺たち付き合ってるんだよね?一緒に帰れないのなんで?」
「それは……」
「昼休みも一緒に飯とか食べたいんだけど」
「わ、私、遠くから須山君のこと見てるのが好きなの!」
そう言って広げた須山君ノートの内容には僕の行動がびっちり記入されていた。

Utubo

- 完 -

作品情報

名波さんの須山君観察記録

#17018

リレー期間

2年9ヶ月