南極からのメッセージ

「私たち結婚するの」  そう言ってしまってから、しまったと思った。  私と美羽と葵は一番の親友だった。小学校に入学したときからずっと同じクラスで、何をするのも一緒で、なんでも話ができて、笑ったり、泣いたりした。同じ世界で生きてきたのだ。  しかし、私の言葉を聞いて、美羽はこれまでに見たことのない顔をした。葵は私の顔から目を伏せた。

yonx

14年前

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「小学生同士じゃ結婚できないことは知ってるよ。大人になったらするんだから。婚約よ。私と大斗は婚約したの。高校を卒業したら、すぐに結婚するの。それで、二人でアパートに引っ越して、同じ大学に通うのよ。だから同じくらい勉強しないとだめなの。ちょっと面倒くさいかもね」私は一気に言うと、二人の反応が怖くて、大笑いした。すると、二人もかろうじて笑顔を作った。  美羽と葵が怖いと感じたのは初めてだった。

tiptap3

14年前

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「そういえば、昨日のドラマ‥」重い空気を振り払いたくて、私はとっさに話題を変えた。 「見た見た!」「かっこよかったよね」美羽と葵はお互いのほっとした表情を確認しあうと、いつも通りのやりとりが会話に戻ってきた。  隣のクラスの大斗は目立つタイプというわけではない。それでも、放送部に所属し下校前の校内放送を担当していた彼の、一言一言確かめるように原稿を読み上げる声が私は好きだった。

14年前

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あれから10年、私は20歳になった。大学生だ。今でも大斗の声を思い出す。 今日は成人式。振袖を着て、会場へ向かう。 「美羽〜!葵〜!」 人混みの中から親友達の顔を見つけ駆け寄る。 「元気だったー?!」 すぐに昔のようにおしゃべりに花が咲いた。 なのに、何か忘れ物をしたような気分になり、ふとうわの空になる。 この後に予定されている同窓会のせいかもしれない。大斗の声が聞けるだろうか。

tati

14年前

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「そう言えば大斗、今日は成人式だろ?行かないのか?」 「何いってるんですか、赤井さん!どうやってここから行くんですか?日本に着く頃には成人式終わってますよ。」 「そうだな。代わりにペンギンとでも記念写真撮ってやろうか?」 大斗はふと隣のクラスにいた目の大きな女の子を思い出した。付き合ってもいないのにある日突然振られたのだ。何て言われたんだっけ?あっ、そうだ「私は大斗君とは付き合えません。」

didi

14年前

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10年前。まだ男と女について何も知らなかったからこそ、想いを募らせるだけで何よりも満ち足りた、あの頃。 付き合えない、という言葉は彼女なりの最大限の愛情表現だったに違いない。あなたを想うこと以上の何をわたしは望むだろうか、あの時彼女が言いたかったのはそういうことだと気づいたのは随分あとになってからだった。 そのかわりずっとそばにいてほしい、彼女は確か、そう続けた。大人になってからはずっと、と。

noppo

14年前

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ちょうど昨年のクリスマス頃から、大斗は料理人として南極探検隊に参加していた。赤井はシェフだ。 最近の成人式は、インターネットで中継をやっていると聞いた事があるぞ。お前の出身地ではやってないのか?と赤井は言った。 そんな事はめったに無いだろう思いながらも大斗は気になってインターネットに接続した。南極は日本と時差があり、今は早朝の5時だ。隊員の朝食を作るため、いつもこの時間には起きていた。

tetch

13年前

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取材班のようなグループが行くのを見て美羽は言った。 「今年は式をユースト中継だって。うちの自治体も進んでるね」 「ユースト?」 「Ustream。インターネットの動画配信だよ」 それを聞いて葵は思い出したように言った。 「そういえばあんた、放送部の子、好きだったよね。婚約とか言っちゃってさ」 美羽は葵と顔を見合わせると、続けた。 「あのとき悔しかったんだよね、正直。うちらも好きだったから」

rain-drops

13年前

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南極。 思い掛けず見つけた、初恋の彼女。 面影? 一目で分かったよ。見つけられないはずはない。 20歳。これからはオレたち、大人なんだ。約束のオトナだよ。 一緒にいてあげられるだろうか? あ、いや、いや。いままでずっと一緒だったんだ。 だって貴女は僕の名を呼んだから。画面の向こうで、僕を呼んだんだ。忘れられていなかった。それだけでいい。 それが、僕達のカタチなんだね、ずっと、ずっと・・・

yoshihu

13年前

- 完 -