仮面の微笑み

温かい布団に包まれて彩也夏は夢と現の間を彷徨っていた。うとうとと微睡む中で夜が明けて来ていることが微かに分かる。 暫くして目覚ましが鳴る。 …ああ、起きなくちゃ。 彩也夏はそれをいつものように手を伸ばして止めようとした。しかし。 手ガウゴカナイ。目ガアカナイ。起キラレナイ。 ナンデ? 未だ目覚ましは鳴り続けている。 混乱した彩也夏の意識は必死の抵抗も虚しく眠りの中へ引きずりこまれて行った。

物見遊山

13年前

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彩也夏は、生まれて初めて、自分が夢を見ていると自覚できる夢を見ていた。起きようとしていたので、夢の中なのに、頭は冴えていた。 彼女が引きずられた先は、真っ暗だった。 そこには直立不動の彩也夏と。 表情の分からない白い仮面を着けた、知らない誰かが向かい合っていた。 「…何なの、あたし起きたいんだけど」 自分の夢の中だと分かっている事もあって、怖いけど少し強気だった。 ー今、何時? 「え?」

harapeko64

13年前

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時計を確かめようとしたが、彩也夏は 目を開けることが出来なかった。 あれ。 手足、果てには指先も動かそうとしたが、 どうすればいいかも忘れてしまった。 どうしよう。今、先程の問題に気付いた。 普段何気無く出来ていた事が出来なくなり、 額から嫌な汗が流れた。 早く、しなきゃ。 そうしていると、白い仮面が、また問いかけてきた。 ー君は、誰?

U-G

12年前

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次第に恐怖が芽生えはじめた。 彩也夏だよ 言葉にならない。どうすればいいの?この際、白い仮面の人がどうにかしてくれるんじゃないかと期待を込めた。その時、突然彼が光を放ちはじめた… うわぁぁぁぁぁ…ん?あれ?ここは…私の部屋? そこは彩也夏の部屋だった。なんだったんだろう?恐怖でしばらく布団の中でふるえている。今までにこんなことはない。新たな刺激を求めていたからといって、これは予想外だ。

R.O.

11年前

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「彩也夏ー、ご飯出来てるわよー?」 一階から聞こえてくる母親の声に彩也夏は我に返った。 ……ただの夢、だよね? とりあえず、お母さんを待たせるわけにはいかない。布団から出て、軋む階段を降りる。あれは夢、そう自分に言い聞かせながら。 しかし、リビングで彩也夏は凍りつく。 「どうしたの彩也夏、顔が真っ青よ?」 いつも通りのリビング。いつも通りの朝ごはん。そして、 あの白い仮面を着けた母親。

Felicia

11年前

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まだ夢の中なのかと彩也夏は思った。 今度は日常の中に異物の混ざった夢。 動ける。聴覚と嗅覚はある。 声が出ないのは、白い仮面をつけているのが本当に母なのかわからないからだ。 偽物なら返事をしたらいけないような、根拠はないけれどそう思った。 「体調悪いの?」 母の声だ。どうしたらいい? 椅子に座るのを躊躇う。一歩も動けない。 すると白い仮面の母が近付いてきて額に触れる。その手は異様に冷たかった。

11年前

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「ひぃッ…」 思わず、“母”の手を払いのけ後ずさる。 心臓がドッドッと大きく鳴っているのがわかった。 全身にさっきよりもひどく嫌な汗をかく。 「寝ぼけてないで早く座りなさい」 “母”は、呆れたように肩を竦めると私に背中を向け、私の朝ごはんを用意する。 逃ゲナキャ。 ふっとそんな考えが浮かんだ。 どこに。何から。どうやって。 わからないけれど。 一歩踏み出そうとしたところで、足がもつれた。

pinoco

11年前

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「イタタ…」 「もう朝から慌ただしいわねぇ、早くしないとバス行っちゃうわよ」 私はその場から逃げ出そうとした、けどやっぱり確認しなきゃ。 「あの…」 「何?」 「その…なんで仮面なんて被ってるの?」 「…」 「お…母…さん?」 キッチンで洗い物をしていた母の手が止まった。 「彩也夏、お母さんね…」 「何?どうしたの?」

Daiju

11年前

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「お母さん思うの。誰もが仮面で素顔を隠してるって」 「は?」 私はその白い仮面の話をしてるのに。 「お母さんは……隠してる顔なんてないけどね」 表情のない白い仮面が微笑んだ気がしてゾッとした。 逃げるように玄関を開ける。 瞬間、私はベッドの中にいた。夢、だったのか。一階に下りる。台所で振り返った母にはちゃんと顔があった。おはようと母が優しく微笑む。 けどそれは、白い仮面の微笑を思い出させた。

- 完 -