幸せのピンク羊

猫がイビキをかいている。 時計が歌を歌っている。 私は天井と睨めっこをしている。 はー…眠れない…

Hitomi.K

13年前

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眠れない時は──古くさい方法だけど、ヒツジを数えてみる。私はまぶたの裏に緑の牧場を思い描いた。もこもこした白いヒツジたちが、現れては柵を跳び越えていく。 1匹、2匹──ヒツジはどんどん跳んでくる──41匹、42匹、43匹──あれ、いまのピンク色だった? 柵を飛び終えたピンク色のヒツジは、こちらを向いて人の言葉を話した。 「おめでとう。ボクは1兆匹に1匹の確率でしか出てこないレアなヒツジです」

saøto

13年前

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自分の妄想なのにヒツジがしゃべりかけてきた。 急に怖くなった私は思わず目を開けてしまった。 (今のなに…?) 落ち着かない私にさらに衝撃が走る。イビキをかいて寝ていた猫がピンクのヒツジになっていた。 「目を開けるなんてひどいですよ。どうか怖がらないでください。あなたは素晴らしいチャンスを手にしたのですよ?」

13年前

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夢と現実は驚くほど似ている。 眠れないと考えていた私は既に眠りについてたのか。 私の足にやや乗っかって、いかにこれが素晴らしい出来事かしきりに説明しているファンシーなもこもこ。 これは夢だ ややシビれてきた足も、獣臭も。 そう理解するのがやっとだった。 「滅多にない事なんですよ」 ヒツジが言い終わらぬ内、クローゼットの扉が前ぶれなく開き驚くヒツジ。と私。 そこにはまた一匹、ピンクのヒツジがいた。

tuzura

13年前

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「滅多に無い割に、増えてるけど……」 どうせ夢だし、取り敢えず突っ込んでみた。それにしても、羊ってよく見ると怖い顔してるな。それに山羊とどう違うの?このもこもこ以外。 「ああ、そうか!ここが日本だからなんだ!いや、我々普通は英語圏でしか呼ばれないもんですから!ほら、sheepとsleepって似てるでしょう?」 わけがわからん。 まあ夢にはよくあることだ。 それより臭い。 「君達食用?」

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「なんでピンクなの?どこから来たの?っていうかちょっと臭いんですけど。なんで喋れるのー????」 私は上から目線で羊に言った。 「質問の間にサラッと臭いとか失礼な事言ったよね今。」 羊は寂しそうに言った。 「ぼくは・・・ぼくたちはあなたの眠りの助けをしに来ました。ね。」 クローゼットから出てきたもう一匹の羊はうんうんと頷いた。 「どうやって??」 私は獣臭い部屋にそろそろ慣れてきた。

Imi

13年前

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「それは勿論、ながーく羊を数えている眠れなさそうな人の心に呼ばれて、ですよう!」 むふふ、と効果音でもつきそうにきりりとした顔で言う。まあ、40匹も数えたんだから、多い、のか?その中で2匹もピンクの羊が出てしまった自分の運が怖い。 「僕たちがあなた様を心地よい眠りの世界へ導いてあげます!ね!」 「ほーい、ではでは一名様を夢の国へごあんなーい」

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チーチーチーチーと、外で羽虫の声。 二匹のファンシーモコモコは顔を見合わせ再び「ごあんな~い」と声を揃えた。 きょとんとしている私に向って再び「ごあんなーい!」偶蹄類特有の横長な瞳が次第に必死に見開き、ちょっと恐い。 「ご案内!ご案内!ご案内!」 「ちょ、ちょっとまった!」私は二匹の鼻に手を押し当てだまらせた。 「あのね、これ、夢だよね?つまり私はもう寝てるんだよね?」 二匹は再び顔を見合わせた。

真月乃

13年前

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次に二匹とも溜め息を吐いた。 「なんだ、もう気づいちゃったんですね」 「早いよ〜」 「じゃあ僕らの仕事は終わりだね」 「うん、じゃあね」 何も分からないうちに、彼らは立ち去ろうとしていた。 「えっ、ちょっと…‼」 「あっ、叫ばない方が…」そう言われた時には遅かった。 気がついたらベッドの上で腕を宙に浮かせた状態で目を覚ましていた。もう朝だったが寝た気が全然しなかった。 「獣臭い…」

harapeko64

13年前

- 完 -