「熱田くんへ 長く一緒にいるけど、手紙を出すのは初めてだね。ちょっと恥ずかしいな。小学校から一緒だから、もう何年一緒なんだろう。ずっと隣の席でびっくりだよ。 気持ち悪いとか思わないでね。この手紙を出すことにしたのは、気まぐれなんかじゃないんだよ。熱田くんにずっと、伝えたい伝えなきゃ、って思ってることがあって」 そこまで書いて頭を抱えた。どうしよう、こんなの渡す勇気ないよ。

紬歌

7年前

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子どもの頃から文通している京都のまりちゃんは同い年なのに随分お姉さんで、私が唯一熱田くんへの想いを打ち明けている相手。そのまりちゃんが、書き慣れている手紙でなら本心が伝えやすいのでは、と提案してくれたのだった。 「深夜を避けて、朝の清々しい光の中で書くのがコツだよ」 まりちゃんの手紙にはそう書かれていた。でも、隣の席なのにわざわざ手紙渡すって、何事だろうと思うよね? しかもどのタイミングで?!

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手紙を渡すのが女子の間でブームになっているんだ、って付箋に簡潔な気持ちを書いて手渡せばいい、とまりちゃんの手紙の続きに書いてあった。 その付箋を囮にして、真剣に書いた手紙は別の形で渡すってのも一つの手かも。 囮? うーん、駆け引きみたいなことは私には難しいみたい。 気軽な雰囲気で手渡せられたらいいのに。熱田君と文通ができていたなら、気持ちを込めた手紙でも受け取ってもらいやすいんだろうな。

aoto

7年前

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そんな時、天変地異な大事件が起きた。 「クラス郵便ボックス?」 「国語の授業で手紙の書き方を学習しただろう?」 丁度いい機会だから、クラスメイト宛に書いた手紙をこのポストに投函したら面白いんじゃないかと思ってな──担任の原田先生が素晴らしい提案をしてくださった。 ポストといっても空き箱に赤い色紙を貼って手作りした質素なものだが、千春には神々しく輝いて見えた。 3組では郵便ごっこが流行した。

ゆりあ

7年前

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サッカーボールに戯れる仔犬の絵。千春は文鳥堂でこの便箋を見かけた瞬間これだ、と思った。 教科書を見ながら書いた手紙はなんだか固くて、形式張っている。でもこれが文通のきっかけになればいいな、なんて。 「千春、手紙ありがとー!ところで伝えたいことって何?」 熱田くんが持つ便箋に描かれているのは四つ葉のクローバー。 間違えた、前に書いた方を渡してしまった!そう思った時にはもう遅かった。

7年前

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「伝えたいこと?えっと…今日の給食は何かなぁって」 「え、それ?たしか今日はチンジャオロースだよ」 熱田くんは怪訝そうに千春の隣に座った。 千春はせっかくのチャンスをフイにしてしまった…。 それからのことを千春はよく覚えていない。気が付いたら家に戻っていた。 「私ってほんと情けない…」 涙ぐみながら千春がランドセルを開けると封筒が出てきた。 そこには熱田、という名前があった。

Ellie

6年前

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