パァン! またピストルが 乾いた音を立てる。 乾いていて、 それでいて重い。 その振動が、 なんとも腕に心地良い。 パァン! また1人、 名前も知らない人が 地面に崩れ落ちる。 虚しくて、 それでいてあっけない。 その開けた視界は、 なんとも気分がいい。 アタシは強い。 アタシは無敵。 誰だって、 アタシには敵わない。 アタシはハンターだもの。 悪いヤツを狩る、 ハンターだもの。
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それはアタシの使命だった。 悪いヤツらを駆逐するため 黒光りする引金を引く。 アタシはハンター。 孤独なハンター。 無敵のハンター。 最強のハンター。 それはとても爽快だった。 アタシはそれしか 知らなかった。 その人が 何を思い 誰と出会い 何を夢見て どんな風に生きてきたかなんて 知らなかった。 雇われた正義の味方。 パァン! 人の命が消えていく。 儚く 脆く 消えていく。
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命を奪う行為よりも引金の方がずっと重かった。 だってアタシは正義だもの。 死ぬのはみんな悪人だもの。 なによりアタシは強いもの。 パァン! アタシの目の前でまた1人、 糸が切れた人形のように、 倒れていく。 弱いヤツが悪いんだ。 弱いことは悪いんだ。 だからこの人は悪人だ。 疑わなかった。 その亡骸に、 小さな男の子が 抱きつくまでは。
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幼い子は可愛い。まるで天使。 無垢で純真。可憐で儚い。自由奔放で世界は明るくキラキラと輝いていると心の底から信じている。 総じてそういう印象。 だがどうだろう。 動かなくなった体に抱きつき、少しだけ泣いた後。赤く充血した瞳にあらん限りの憎悪を込めて私を見た。 悪魔め!人殺しめ!鬼め!お前は俺がいつか殺してやる! そう言っている様だった。 銃口を眉間に向けても揺るがなかった。
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パァン! 私はためらわず引き金を引いた。 しかし、それは男の子の致命傷を避けた右足をブチ抜いた。 男の子は痛みで顔を歪ませるが、まだ憎悪のオーラは消え去らない。 パァン! 今度は左足。 パァン! 右肩。 パァン! 左肩。 それでも男の子の憎悪の顔は歪まない。 怯えた顔が見たかったのに。 パァン! 最後に脳天にブチ抜いた。 胸くそ悪い。私が勝ったのに。私の方が強いのに。 負けた気分。
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アタシが悪いの? アタシが悪なの? そんなはずない。 あの男の子が悪いんだ。 悪いヤツの子どもだから。 弱いヤツの子どもだから。 アタシは自分に言い聞かせ もう一度引金を引く。 パァン! 乾いた音は どこか心地が悪かった。 憎悪の眼差しが アタシの脳裏に焼き付いた。 アタシはハンター。 正義のハンター。 パァン! 誰かがアタシに 銃口を向けている。 人殺しめと 罵る声が聞こえる。
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アタシは最強。 アタシは無敵。 だってそうでしょ? アタシは殺してる。 だいたい多すぎるんだ 世の中には 悪者が いけない 殺さないと アタシは パァン! ハンターだ。 そう、無敵の 眠れない。 なんでだろう。 どうして アタシが殺されるんだ? アタシに銃口を向けるんじゃあない!!
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パァン! いつも聞いてる音。 アタシが無敵でいられる音。 それなのに。 怖い。怖い。怖い。 アタシは初めて見た。 銃口の前の景色。 引き金に指をかけているのは……アタシ? にっこり笑って言うんだ。 ーー殺さなきゃ、悪者。この世界には多すぎる。 違う違う違う、アタシは悪者なんかじゃない。 ブンブンと首を振ってアタシに叫ぶ。 ーーやめてよおおおおおお その瞬間、気づいてしまった。
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人は独りでは生きていけないということに。 アタシはずっと独りだった。 寂しかった。 でも、正義という言葉を知ってから、アタシは変わった。 悪者を殺して正義を守ればいいんだ。 アタシ以外にそんなことをする人はいない。みんな勇気がないんだ。そう思っていた。 目の前のアタシは無表情のまま、涙を流していた。アタシは悪い人だけでなく、周りの人でさえ傷つけてきたんだ。 パァン! 静寂が広がった
- 完 -