万物へ ぼくは 君が思うようなやつじゃない そんなやつじゃない 朝起きて 花に水をやって 夜寝るとき おやすみを言う 或いは それ以下の人間だ うまくやろうとして 雨に打たれることもある 光もあるが 極楽は多くない 嘘と真は いつも喧嘩ばかりだ 人生は 悲しいもので お湯をいれてあげたり 蓋をしたり 時間が過ぎるのを待つ カップ麺 幾星霜 涙は風にさらわれる ぼくは そんなやつだ
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真愛ナル者へ 手放せないのに 時々忘れてしまう。 そんなヤツだね、君は。 唇に触れて 僕を駆け巡ったら あっという間に 吐息に消えていく。 チョット切ナイカ... 富める時も貧しき時も 病める時も健やかなる時も いつ何時も君を探している。 近頃、なにもかも、 窮屈になってきたけど いつか分かつその日まで ...だね。 と、考えていたら 平和のハトは最後の一本。 喫煙室にて
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七日目の蝉へ きみの生はすぐに忘れられる。 きもちわるいだのうるさいだの 身勝手なニンゲンに文句を言われ、 こどもには虫捕り網で捕まえられ さんざんな七日間だったろう。 わたしの生もいつか終わる。 自身の身勝手な振る舞いで 周りを傷つけてきた。 わたしの生はきみのように 力のある限りやれることをしてきたか、 悔やむことは多々あれど、 きみのようにさいごまでなき続けられないようだ。 裏庭にて。
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なないろへ パレットの上には、たくさんの色 混ざり混ざって、ななついろ 真っ黒になった赤色に、黄色くなった朱を混ぜた。 テエブルの上には、ひどく遠い世界が見える わたしの目には映らない、名前も知らぬ空の上 真っ赤になった青色に、茶色くなった黄を混ぜた。 くろあかきいろ、あおあかちゃいろ。 わたしの目には映らない。 花瓶に添えた花びらが、テエブルの色を塗り替えた。 ヴェランダにて
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自分へ 君は、普通です 特別なものなど何もない 誰かが君と話したとして 多分、明日の午後には忘れてしまう ハコの中身はは空っぽだった 其れを悟られてはいけない そのために君はコトバを使う 愛想笑いで逃げる 綺麗な星空の下、君は思う 特別なヒトになりたい 誰かの為だけに生きたい 只、其れだけなのに 難しいね 夜の散歩道にて
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麗しい夜へ 単刀直入に言うと君を愛してる。しかし夜ってのは無粋を好まない。だから言葉を尽くして君を口説くのさ。 遠くの音が聴こえる。天高い風の渡る声も降って、月明かりは僕の顔半分を明かす。そして密やかに夜は息衝いて。 僕はよく泣くだろう。君はそれさえ抱いて夢に誘う。バンシーのように僕の涙が宝石なら、スターサファイアなら君に全部捧げよう。 嗚呼 世界を去ることのない夜よ。 窓際にて
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少年へ めいいっぱい走り回りなさい 怪我をすることもあるけれど、 思いっきり楽しんで、疲れ果てなさい 滑り台を滑りなさい 砂場でアートを作りなさい ジャングルジムを登りなさい ブランコをこぎなさい 友達とおしゃべりしなさい 譲り合いなさい 助け合いなさい 一緒に楽しみなさい 公園にて
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近づいてくる死へ 僕は怖い 隠さず言おう 死ぬのが怖い つまり、君が 僕は子供の頃癖があった ベッドで死のことを考える 人は何故死ぬのか 死んだらどうなるのか ”永眠” その言葉が本当なら 寝たら僕は死を体感できるのか なんてことを毎日考えていた その癖は今も変わらない そう考えると僕と君とは幼馴染的な存在だ 僕は君を受け入れなきゃいけない だから、僕に生を教えてくれた君に感謝する 寝室にて
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君へ これを開いたということは、目覚められたのですね。まずは、おめでとう。君は自分のおかれている状況に混乱を覚えるかもしれません。それもそのはずです。 大人だったはずの体が少年の体に代わっているのですから。 君は訪れる死や、自分の拙さに悩んでいました。そこで、君は人生をやり直すことに決めました。僕は前世の君のことを伝えるため、この9つの手紙を用意した、というわけなのです。 脳移植実験室より
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