一無量大数番目の

十代、二十代、と無難に生きてきて、三十歳の誕生日。 トラックに轢かれ、私は死んだ。 しかし、目を開けた次の瞬間。 轟音にも似た歓声が、私の鼓膜を貫いた。 「オメデトウゴザイマアァァアス!」 ここは、どこ? 「貴女は、記念すべき一無量大数番目に死んだ生命です!」

らいむ

10年前

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私がぽかんとするのも気にせず、彼は嬉々として私の手を取った。 「さあ、ラッキーガールさん!今日という素晴らしい命日に乾杯しましょう!」 死んで早々、こんなおめでたい言葉の嵐を聞く事になるとは思わなかった。 ここが「あの世」? ならば、目の前の彼は、天使か死者のたぐいだろうか。それにしては妙だ。真っ赤なラメのスーツを着込んでいる。 「申し遅れました、私、天界盛り上げ隊のルシフと申します!」

kam

8年前

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「天界、盛り上げ…?」 「はい! どうやら人の世では死後の世界と聞くと大体が暗い・怖い・汚いの3K揃ってマイナスイメージが付いているそうで。それを覆そうという活動を行っているのです」 「は、あ……」 「この記念キャンペーンもその一環でして。今回選ばれました貴女様には特別なおもてなしをご用意しております」 未だ状況が掴めない私に、よく喋る彼はさあこちらへ、と手を取った。

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エスコートされた先には、映画でしか見たことの無い巨大なリムジンがあった。 鏡の様に磨き上げられたボディ。 横っ腹にずらりと並んだ窓。 うわあ、と感嘆の声。気づけば自分も相応しいドレスを纏っていた。 しかし、二度目のうわあは別の意味となる。 よく見ると、ボンネットにでかでかと私の顔写真がプリントされ更に漫画のタイトルのような書体で「ハッピー天界トゥーユー!!」の文字が意匠されていた。 「う、うわあ」

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「どうです、気に入って頂けました?企画立案・デザイン・施工!全て私です!」 えへん!と誇らしげなルシフは、グイグイと私を痛車へ押し込んだ。 そこで飛び出た、三度目のうわあ。それは再び感嘆の吐息だった。有難いことに、中はVIP御用達最高級リムジンのイメージ通りだったのである。見るからに高級な白の本革シートに、ワインセラーまで備え付け。 ああ、最高の気分! 「それでは行きましょう!いざ、地獄の門!」

オム飯

6年前

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「え?」 「え?」 私の驚きにルシフも驚きで返す。 「ちょっと待ってよ。今までの流れ、完全に天国行きだったじゃない。地獄の門って?」 自分で言ってから合点がいった。 「あ、そっか。この車で地獄の門まで行って、それから天国に行くってわけね。ツアーみたいなもんか」 そろそろこんな状況にも慣れざるを得ない。 自体を把握しやっと一息ついた私だったが、 「アーッハッハッハッハ!」 彼は愉快に笑いだした。

miyo10

6年前

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「まさかまさか。いやあ、貴女はなかなか冗談のセンスがありますね」 にこやかに言う彼にそろそろ怖くなってきた。 「天国なんかありゃしませんよ」 「……え?」 ぞくり、本当に恐怖が走る。 「昔はあったんですけどねえ。人間は好き勝手しすぎてしまいましたから」 さぁ行きましょう、と笑う彼の合図で、豪華な車は走りだした。 ……しばらくして着いたのは、盛大なイルミネーションで飾られた明るすぎる門だった。

絢水

5年前

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「どうです、これ!これであなたも地獄に来てみたくなったのでは!?」 …いや、どうですって言われても。 「チェンジ!」 どこをどう見ても煌びやかな地獄。 思わず叫んだ私に、ええ、とルシフは不満の声を上げた。 「山田さんの好みを事前にリサーチして1人で頑張ったんですよぉ!」 ぐいぐいと私を門の向こうに押しやろうとする。 何こいつ力強い。 と、いうか。 「そもそも私、山田さんじゃありませんし!」

八尋

5年前

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「え?」 目を丸くするルシフ。え?じゃないから。 「確認だけれど、本当に山田さんじゃないんだね?」 ええ、と頷こうとして何か引っかかる。私がトラックに轢かれて死んだのは事実だよね。 「私が一無量大数番目に死んだ山田さんじゃなかったら、まずくないですか?」 「うん、関係ない人を接待する余裕は無いし」 じゃ、山田さんでいいです。 「良かった、上に怒られずに済みます」 私もどうせなら楽しい死後が良い。

- 完 -