今日。卒業式のあとに、気持ちを伝えようと思っていた。迷惑だと思われても、断られても。中途半端なままの気持ちに区切りをつけたかった。 ぐずぐずとタイミングを図っている間に、彼はどんどん遠ざかっていく。ちょっと、待ってよ。 このまま校門を出てしまえば、きっともう会えないから。住むところも進学先も違う。今日が最後のチャンスなのに。 「…熱田くん!」 やっと声が出せた。彼が振り返る。

紬歌

7年前

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言葉に詰まる。 熱田くんは、しかめっ面で、ぽたぽたと大粒の涙を零れるままにしていた。ずずっと鼻をすすって、それからまた歩き出そうと前を向く。 「待って、あのさ!」 「なに」 ぐしぐしっと掌底で乱暴に涙を拭って、くぐもった鼻声を洩すのを聞いた。 熱田くん、そんなに卒業が淋しかったのか。それとももっと、別な理由? 「謝恩会、行く?」 もし来るなら、もう数時間、先延ばしにできる。 「さあ」 「そ、そう」

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困った。 熱田くんは大泣きだし、来ると思っていた謝恩会の質問へはさぁ、との返答。 でも来てくれないと告白の機会がなくなる。けど今はちょっと言いづらい。 「そういえば、プレゼントあるんだって。きっと三木先生のことだか…」 「なぁ、それわざと?」 そういって熱田くんは振り返り、わたしをきっと睨んだ。 え、なんで? 驚きとショックからわたしはその場にうずくまり、泣き出してしまった。

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「俺、お前のそういうとこ嫌いだ」 ボールになって俯いていたら、天から降り注ぐトドメの槍。私のHPは瀕死だ。 きっとそのまま放置で帰るんだろうと思っていたのに、意外にも熱田君は 「立てよ」 と手を差し伸べ引き上げてくれた。 「謝恩会行くんだろ?どんだけ泣き腫らして行くつもりだよ」 「な、泣かないもん!」 腫れぼったくなった自分の顔を想像して、思わずそう言い返す。 「なら良い」 …っ!何で笑うのよ。

ゆりあ

7年前

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