私が涙を一滴流すと、大陸が一つ粉々になるらしい。 その事実を聞かされたとき、あんまり怖かったので泣いてしまった。すると、アラスカ大陸が消滅した。正直引いたが、そんなわけで、私は泣く事ができない。 私、泣き虫なのに! なんで私はが選ばれたんだろう。てな事を考えても仕方ない。私は大陸を一つ、ヤってしまっているのだから。 ウロウロしていたら、 ガン! 足の小指を強打した。 やば、泣きそう…
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が、がまんです。たとえ私の足の小指がちぎれようともこれ以上一滴たりとも涙を流すわけにはいきません。患部に目をやると塗ったばかりのペディキュアの色とともにぺきっと何かが分割されてしまっているように見えるのは気のせいです。幻覚です。 唇をキツく噛み締めた結果涙はひっこみ、私はホッとする。 ホッとしたら涙がこぼれた。 ……えっと、これはセーフですよね、きっと大丈夫、たぶんギリでオッケー‼……だよね?
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「速報です。たった今、オーストラリア全域で地震が起きたというニュースが入ってきました」 …。 あ、ああ…。
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テレビの中継で海に沈んでゆくオーストラリア大陸の姿を、私はただ見ている事しか出来なかった。どうやら涙の理由は大陸を選ばないらしい。 と、そこへ唐突に白衣の集団が現れる。 「どうやら貴女は我々の予想以上に涙脆いらしい。」 彼らは私の涙が大陸を消す事実を伝えた研究機関だ。涙腺の刺激を防ぐ為、私は彼らの研究施設で生活を余儀なくされていた。 「止むを得ませんが、更に行動を制限させて頂きます」
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そんなあぁっ! 研究機関が私を拘束した日のことを思い出す。あれもダメ、これもダメ。縛られるのはもうこりごりだ。私はこのままずっとこんな風に生きていかなければいけないのか。 悲観的な気分は朝鮮半島を沈ませる。 「なんてことをしでかしてくれたのだ!」 衛星モニターを見ながら、白衣の男が叫んだ。私の涙のせいだけど、涙したのは私のせいじゃないよ! 白衣の集団は私を取り押さえると、麻酔を注射した。
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意識が段々と遠退いでいく。 気がつくと、私は夢の中にいた。 『どうしたんだい?』 この声に私が振り向くと、そこには亡き母の姿があった。 『ぐすっ…あのね、私のせい大陸が…』 『そうかいそうかい、それは辛かっただろうね、よしよし…』 『うん…』 そして数時間後、ふと私は目を覚ました。 そして何気なく目の前にあるモニターを見ると… そこには、日本列島以外何もない地球の姿が映し出されていた。
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自分の頬に触った。濡れている。 そうか、私は日本以外の大陸を全て消したのか。 白衣の男は、椅子に座って項垂れていた。 まるで、世界が終わったとでも言いたげな顔だった。 そんな男を見て、少し前の私だったら泣いただろう。 自分のせいで失ったものに悔いるように。 でも、今の私は違った。 「ふふっ、うふふふふ!!!!」 突然笑い出した私を、白衣の男は非難の目で見た。 「何が面白い!!」
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極限まで追い詰められると、人間、こうなるのかもしれない。 周りにあるものすべてが面白く見えてきた。笑いが止まらない。 「うふふ、あはは!」 その時だ。白衣の研究員が一人部屋に飛び込んできた。 「大変だ!地殻変動の影響で、大陸が一つ増えたらしい!」 びっくりしてモニターを見る。 なんと、オーストラリア大陸だった場所に巨大な島がぽっかり浮かんでいる。 「ブッ!大陸が増えてる!あははは!」
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笑いすぎて涙が出てくると、生まれたての大陸の右半分が消えた。 「貴様いい加減に、」 「触んないで!」 掴みかかってきた研究員に怒鳴り返すと、大陸の左半分が噴火し吹っ飛んだ。 「…」 「…」 「…とにかく笑いますか。まず地図を元に戻しましょう。」 「急に言われても…」 「布団が吹っ飛んだ」 「さっむ何ソレ無理無理」 昔、神様は7日で世界を作ったというけど、私たちにはもう少し時間がかかりそうです。
- 完 -