塔とわたし

誰もが、私を見ることは叶わなかった。 孤独と命を積み上げてできたこの塔の中。 此処で生きられるのは、私だけ。 誰が、何のために。 この場所に私を縛り付けたのか。 それすらも、忘却の彼方へと取り残されて。 「僕らを残すためには、貴方が犠牲になるしかなかったんだ」 ねぇ。 私を対価にしてまで得たものは、何ですか?

NoaH

12年前

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小鳥の囀りで、私の毎日は始まる。 朝日の眩しさに目を細めて鉄格子の嵌った窓を見上げては溜息を吐く。 本を読んだり歌ったりして暇を潰し、思い出したように泣き、忘れてしまった何かを思い出そうと必死に考える。そして夕暮れと共に眠りにつく。 毎日は生きながらにして死んでいるようなものだった。いつか呼吸の仕方も忘れてしまいそうだと、私は嘆く。 この塔から出たい。 その思いは日増しに強まっていた。

月野 麻

12年前

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ある雨の朝。 私は壁の一部が濡れていることに気づいた。 まさか、雨が染みているのだろうか。 思い切ってフォークを突き立ててみると、濡れた部分がほろっと崩れて落ちた。 恐るべき頑強さで私を包んでいたはずの塔に生じた、初めての綻び。私は夢中で壁を突き刺す。やがてフォークが曲がってしまい、我に返った。 崩れた壁は、ほんの少しだった。だけど、崩れた。崩れたのだ。 ここから出られるかもしれない。

misato

12年前

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雨が降るのを待ち続け、壁を崩せるものを集めた。それらは私の希望だった。 綻びが広がるたびに私は格子の窓の向こうの雨雲に感謝した。 私は大事な事を忘れているように思えた。ここにいる理由、私は何のために犠牲になったのか。なぜ抗わなかったのか。 長い間、ここにいたせいで怒りという感情を忘れていた。失望しかなかったはずなのに。 何かが引っかかる。 蓋をしてきた何かが私に訴えかけようとしている。

11年前

- 4 -

それでも私は外への欲を捨てられなかった。久々に街へ出て、可愛い服を買って、人と話して…! 外には楽しいことが山程ある! 「僕らを残すためには、貴方が犠牲になるしかーー」 壁を削る最中、声が蘇る。残すとはどんな意味で、私はいつから犠牲なのか。覚えてない事柄が外を目指す私を罪人のような気分にさせ、手を何度か躊躇させた。 でも、もう後には退けなかった。 あの分厚い壁の綻びは、ついに小さな穴となっていた。

ことせ(休憩中)

11年前

- 5 -

幸い私は小柄で、その小さく開いた綻びから手を出すことができた。 ひんやりとした空気が腕にまとう。きっと、世間は夜なのだろう。もうずっと遠くで忘れていた外の感触が、今、私の手の中にある。 嬉しかった。ただ、純粋に喜びを感じた。 さあ、ここまでくれば簡単だ。後戻りなどしない。私はこの手に掴んだ感触を離したくはなかった。 手を引っ込め、穴から空を見上げる。青い月が私を祝福していた。

Ringa

10年前

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それからの私の毎日は、小鳥の囀りよりも、朝日の訪れよりも早く始まった。 かつての忘却に苦しめられた私はもういない。 どうか私に自由の雨をお恵みください。 涙はもう枯れ果ててしまいそうなのです。 せめて心が枯れ果ててしまう前に、どうか…… ただ祈り続けた。 本当はあの声から、罪の意識から逃げたいだけなのかもしれない。 それでも私は、私を取り籠めるものを崩し去りたかった。 だから私は崩し続けた。

ユカリゴハン

10年前

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——この国では、古代文明が残した巨大な象形文字が鉄の掟として伝承されてきた。大飢饉を予兆させる年になると、神官達は生贄を差し出すことで混乱を鎮めようとしたが、それは民衆を納得させる為の奇行であった。 世代毎に課せられた因習も、やがては風化する。今、完全なる世襲による政治体制と次世代の新風が対峙していた。 そこで、神官見習い達は一計を案じ、生贄の彼女を塔に避難させていたのだった—— 壁は破られた。

唐草

10年前

- 8 -

たどたどしい足取りで、わたしは崩れた壁の小さな穴から体を折り曲げ、外へ出た。気づくと同じ年ごろと見える女の子が手を差し伸べ笑っている。わたしは生贄でない、ただの女の子だった。女の子に手を引かれ街に出るとたくさんの食物があふれている。家族にも再開することができた。ときが経ち、今わたしは素敵な仲間と家族に支えられている。今、わたしは強くなった。勇気を出しかつての塔に行ってみるととても小さく見えた。

hahuhahu

10年前

- 完 -