人生プランナー

その日は、とても晴れていた。 照りつける太陽に舌打ち。太陽は暑さなんて感じてないだろうが、俺ら人間にしてみれば、この暑さは耐え難いものである。俺は首を伝う汗を拭い、ベンチに腰掛けた。そうして、もう一度舌打ち。 「この世界が気に食いませんか」 ぽつりと、どこからか子供の声。不気味だ。だがどうせここにいるのは俺だけだ。変に見られることもないだろう。そう思って口を開いた。 「ああ気に食わないね」

Nakahara

9年前

- 1 -

本当に何気なく言った言葉だった。暑さで頭がやられていた所為もあったかもしれない。 「じゃあ、変えてみようとは思いませんか」 子供の声から思わぬ返答があったので、どっきりして俺はそちらを振り返った。 目線の先には、スーツ姿のちっぽけな少年が、すました顔で佇んでいた。 「変えようって、何を?」 「この世界を、ですよ」 彼は、子供らしからぬ笑みを浮かべる。 「案外と簡単に変えられるものですよ」

kam

8年前

- 2 -

「なに?あんた悪魔?記憶はこのままで過去に戻れたりできんの?」 クソ暑い中でカラスみたいに真っ黒なスーツに身を包む少年に、半ば八つ当たり的に言い放つ。 「いえ、そんな大それた事はしませんよ。僕はそうだな……人生のプランナーとでも思っていただければ」 人生の再設計のアドバイスをしますよ、と嘘か本当か怪しい笑顔。 「じゃあ頼むよプランナーさん。まず何をすればいい?」 冗談に付き合う位には暇だ。

- 3 -

少年は腕を上げ俺を、いや、俺の後ろを指差した。その先は…コンビニ? 「まず、あそこでアイスを買ってください」 俺は呆れて何も言えなかった。所詮子供は子供か。 そんな俺を見て少年は少しムッとした表情で言った。 「行かないんですか?この世界を変えるチャンスなのに」 全く馬鹿馬鹿しい。だがどうせ暇つぶしのつもりだったのだ。最後まで付き合うのも悪くない。 ベンチから立ち上がりコンビニへ向かう。

雪中花

8年前

- 4 -

「アイスは何でもいいのか」 コンビニへ向かいながら少年に聞こえるように投げやりに言う。 「あなたが今食べたいアイスを」 少年が食うんじゃないのかよ、と呟きながらコンビニのアイスコーナーを覗き込む。 今はアイスより冷えたビールの方がいい。そう思いながら適当なものを選んで買い物を済ませ、コンビニを出た。 少年はアイスを眺めて溜息をつく。 「適当なものを選びましたね。人生の再設計だと言ったのに」

7年前

- 5 -

「まあいいでしょう」 少年はパチンと指を鳴らす。 「適当でも選択。吉と出るか凶と出るか、流れに委ねるのもまた一興。ーーご武運を」 気がつけば、少年の姿は消えていた。 「なんだったんだ…?」 暑さが見せる幻だったのか。しかし手にはしっかりとアイスが存在している。 「くそっ」 世界を変えるだと?こんな安物のアイスバーが? 俺は自棄になり、あっという間にそれを平らげた。 残った棒にはーー1等の文字。

ino

7年前

- 6 -

急いで俺はビニール袋に突っ込んだアイスバーの包みを手に取る。説明書きにはこうある。一等・オーロラ観測ツアーにご招待── 「オーロラだって?」 冗談だろ、とそこにいないはずの少年に向けて放った声は声にならなかった。指先が、いや身体全体が震えている。あの少年は世界を変えると言った。まさか、この旅行がその一歩だと? 「何だよそれ……」 灼熱の太陽に照らされたアスファルトの陽炎がゆらりと揺れた。

Ringa

7年前

- 7 -

「…上等だ。これで世界が変えられるなら乗ってやる」 俺はアイスの棒を握りしめて、近くにあった旅行会社に行った。 担当者は一等の棒を見るなり嬉しそうに言った。 「このキャンペーン、滅多に当たりが出ないんですよ!」 その笑顔はとても可愛くて、さっきまでの苛立ちが吹っ飛んでしまった。 「お客様の旅が更にハッピーなものになるようお手伝いしますね!」 俺は久しぶりに「楽しい」ってこういうことだと感じていた。

Ellie

5年前

- 8 -

あれから何年経っただろう。 不思議な子供に乗せられて、北極で始めてオーロラを見たときのことを思い出していた。 「隊長、準備ができました」 振り向くと防寒着で全身を覆った男たちが、出立の用意を済ませ俺の言葉を待っていた。 扉を開ければ、外には白銀の氷の大地が広がっている。俺は小型中継機のボタンを押した。 「これより第〇〇○回北極探査を開始する」 ──この世界が気に食いませんか。 「さぁどうだろうな」

kusaka:)

5年前

- 完 -