メロンソーダはお揃いで
彼はここに来ると、決まって窓際の席に座り、メロンソーダを飲みながら本を読む。
そんな彼を、私は今日も眺めた。
「あらぁミカちゃん!今日も独り?」
店のおばさんはいつもそうやって私を茶化す。
「一人で来ちゃダメなんですか?」
私は皮肉っぽく言った。
「そんな怒らないで、はい!いつもの!」
おばさんはそう言って彼と同じメロンソーダをコースターの上に置いた。
本当は私、レモンスカッシュの方が好き。
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「…あれ、何か、ダメだったかな?」
そんなに暗い顔でもしていたのだろうか。
ニコニコと陽気に笑っていたおばさんの表情が、叱られた子供みたいにシュンとしたものに変わる。
「っ、ううん、なんでもない。」
氷でいっぱいのグラスに口をつけ、 ならいいんだけど なんてカウンターの奥に戻る笑うおばさんを見送った。
- 2 -
彼はいつもゆっくり本を読みながら、時間をかけてメロンソーダを飲む。
最後の方はすっかり炭酸も抜けているだろうに、ちっとも気にしないようだ。
炭酸の抜けたメロンソーダは甘さばかりが増して少し苦手だ。
それでも私は、ここにくるとメロンソーダを飲む。
せめてもの繋がり。
私は彼に話しかけることを許されていないから。
からん、と溶けた氷が音を立てた。
- 3 -
私と彼の父親は同じ人物だった。けれども、私たちは正式な兄弟ではない。互いに違う学校に通っていたから、面識は殆どなかった。部活動の試合の日、彼の姿を見つけたのは母だった。母は彼と話しては駄目よ、と私に言い聞かせた。
しばらくして、一人の女の子が店内に訪れる。露出させた肌は白く、細い足にヒールがよく似合っている。彼女は彼の席に座り、
「長いこと待たせてしまってごめんなさい」
と述べた。
- 4 -
「頼まれてた事、父に頼んで調べてもらったわ」
彼は本を閉じ、彼女をじっと見つめる。
その沈黙が私をも緊張させる。
彼女はひと息ついた後、はっきりと言った。
「結果、貴方に兄妹はいなかった」
彼の睫毛が悲しげに伏せられるのが見えた。
違う。嘘だ。だってここにいる。
貴方の妹が。
「父が貴方のお父さんに直接聞いたの。
親友に嘘はつかないと思うわ」
嘘だ、嘘だ、
「嘘だ!」
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がちゃん、とグラスが割れた。それと共に今までの彼と私との関係が一気に崩れた気がした。
「嘘、その人が言っていることは嘘だ。だって……だって、私が貴方の妹なんだから」
女の子は可哀想な目で私を見た。そんな目で見られることなんて、なにもしていないのに。
「それは貴女の妄想よ。そんなことを言ったって、彼は貴女のものにはならないわ」
女の子は私にそうきつく言い放ち、彼と共に店を出て行こうとした。
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「待って!!」
止めようと彼の腕をつかむ。
私の行動に彼は驚いていたが、そっと手を下ろし私が話すのを待ってくれた。
「……部活動の試合があったあの日、私は母から貴方が兄だって教えられたの。貴方も妹がいるって聞いたから調べてたんだよね?」
そうと言ってほしくて彼の目をまっすぐ見る。
「……いきましょ。」
女の子が彼を店を出ようと促す。
彼は何故か私に悲しそうな顔をしてそのまま出て行った。
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そうか、と私はふいに悟った。
母は内緒で私を生んだんだ。
だから父も私の存在を知らないし、彼に話しかけてはいけないと言ったのだ。
ああ、やっぱり親子だ。
せめてもの繋がりを、作りたくて。
私はメロンソーダを頼み、母は私を生んだ。
それだけのこと。
「ミカちゃん……」
「おばさんごめん。お勘定お願い」
私は会計を済ませて店を出た。
- 8 -
店の外に立っていたのは、彼だった。
どうして、という私の問いを制するように、彼は苦しそうに口を開いた。
「悪かった。こんな真似をして……あの店に妹が来ていることはずいぶん前から知っていた。今のは全て芝居だよ。君に……自分から名乗り出てもらうための」
握られた手が、微かに震えている。
「辛い思いをさせては、と思ったけれど、それでも──会いたかった」
メロンソーダの炭酸が、胸の奥でぱちん、と弾けた。
- 完 -
作品情報
メロンソーダはお揃いで
#19989
- リレー期間
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11ヶ月