仕掛かる心

自分で言うのもなんだが、私はこの高校でトップクラスの美人だ。 今日も隣のクラスの男子に告白された。でも「ごめんなさい」の一言で断った。いつものことだ。 誰に告白されても結果は同じ。私は興味がないから。恋愛に。 同じ位の年の男女を見ると、温度差を感じる。みんな何が面白いのか、はしゃいでいる。私もクラスから浮かない程度に合わせているが、なんの面白味もない。退屈だ。 「今日は楽しいことあるかなー」

宝珠院

12年前

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腹が立つくらい真っ青な空を見上げて呟いた。 雲ひとつない快晴なんて久しぶりだ。 ああ、三時限目の体育が今から憂鬱になってしまう。 ………なんてボケッと上を向いたまま歩いていたのがまずかったらしい。 「ーーうわっ」 「……きゃっ!?」 校門へと続く最後の曲がり角で男の子と正面衝突。 弾かれて、カッコ悪く尻もちをついてしまった。なにこれ有り得ない。 …しかも相手は隣のクラスの地味男とか。

やまと彰

12年前

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「だ、大丈夫…?」 地味男が手を差し出した。 「へ、平気だから」 その手は取らずに自分で立ち上がった。 「遅刻しそうで急いでたんだ。だから気付かなくって…ごめんね、芹沢さん」 素直に申し訳なさそうに謝る地味男を見てなんだかさっきの自分の態度が申し訳なくなった。 「私もぼーっとしてて…ごめん、えっと…」 う…名前がわからん。なんせ地味男だ。 「中村悠斗だよ。じゃ」 そういうと中村は走って行った。

☆天使☆

12年前

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颯爽と。 なんだか爽やかに。 私は再びぼーっとしながら、その背中を見送る。 「そんなに遅刻ってダメなの?」 呟いてから、思い直した。 「ダメだわ」 それでも、私はまだぼーっとしながら歩き出す。(中村悠斗は真面目だねぇ)なんて思いながら。 遅刻しながらも、焦ることなく教室に入って、担任からお説教。悪いと思ってないくせに謝ってみたり。 (中村悠斗は間に合ったのかね?) 席に座ってぼーっと考える。

nopoint

12年前

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「芹沢さん」 顔を上げると中村悠斗だった。 「さっきはごめんね。怪我してない?」 私は大丈夫、とだけ答えた。 それより、どうしてここに?隣のクラスじゃ.... なかった。 なんてったってもう10月で。申し訳なさでいっぱいになった。そして私の心の声は実際の声となって中村に伝わったようで 「オレ、目立たないし、気にしないで!」 と笑って、化学の教科書を持ってじゃあ、と去っていった。

Nady

12年前

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申し訳なさなんて感じる必要ない。 私はそう思い直した。 (だって地味男だし、しょうがないじゃない) 私は一体誰に弁解しているのか。 授業の化学の実験中、無意識のうちに先程の地味男の姿を思い出していた。 「中村さぁ」 「えっ?」 私は心の中を読まれたのかと思って心臓が止まりそうになった。 「なに、どしたの?そんな声出して」 隣に座るルミだった。 「あ、何でもないよ。それでどしたの?その中村が」

TAKANA

12年前

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「中村さあ、あんたの事好きなんじゃない」 ルミが意外な事を言い出した。 「最近中村ってあんたの事見つめてるんだよね」 気づかなかった。正直さっきまで同じクラスってことさえ知らなかったんだから仕方ないじゃん。 「で、わざわざそれを私に言ってどうすんの」 動揺を隠す為に素っ気なく言った。 「だってさ、さっきのあんたと中村なんかいい感じだったじゃん」 なんか痛い所突かれた。 自分でもわかんないんだよね。

nyanya

12年前

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「ーってことで帰りのHRは以上だ。みんな気をつけて帰るようにな〜」 担任はそう言って教室を出て行きこれといってなにもなく今日の学校が終わった。 「ルミ!今日さ〜駅前にできた新しい…「ごめん!今日バイト急に変わってってゆわれちゃってさーまた今度にして!ばいばい!」 「え…あ…」 あたしがばいばいも言う暇がない位の早さで教室を出て行ったルミ。

noname

12年前

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仕方なく、1人で帰ろうと支度していると、中村が声をかけてきた。 「今日、一緒に帰らない?」 ドキッとした。心が揺れた。しかし私は、「ごめんなさい」の一言で断った。 教室の窓から、急いで出て行ったはずのルミがとぼとぼと校庭を歩いているのが見えたからだ。 中村がルミに追いついたのを見届けてから、私も教室を出た。 「明日はいいことあるかなー」腹が立つくらい真っ赤な空を見上げて呟いた。

- 完 -