帰宅部スター

「何かさ、部活立ち上げたいんよ」 帰宅部リーダーの前園さとみに招集を掛けられた4人の男女は、しばし沈黙した。そして同時に口を開いた。 「はあああああ?!」 「まぁたさっちんの気まぐれ?」 「無理無理。うちらバラバラだし」 「そもそも5人じゃ部は設立できませんよ」 「同好会なら帰宅部でいいじゃん、今まで通り」 しかしさとみは予想通りの反応に余裕の表情。いや、これは彼女の標準顔だ。

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「君達ねぇ〜、この学生生活の間、何でずっと何もしないでいられるの?一発でかい事をしようと思わないの?」 「「「「それだけは帰宅部部長にいわれたくない!」」」」 と、以下四人が綺麗に口を揃えた。 「お〜チームワークばっちし。この団結力なら何とかなりそうね」 さとみは、真性のポジティブシンカーのようだ。 「え、ていうかマジで何かやるの?」 「またいつもの冗談だと思った?今回は、マジよ」 「何やんの?」

harapeko64

13年前

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「これよ!」 そう言ってさとみが取り出した用紙に書かれていたのは、 「超、帰宅部……?」 「なに、それ」 「おっほん。超帰宅部というのはだね、誰よりも早く帰宅する、帰宅のスペシャリストを創る部よ」 さとみはノリノリで説明した。 「……は?」 「いい?私たちはそれぞれ、徒歩,自転車,電車,バスそして先生の車を使って、帰宅タイムをつくり、そして更新していくの」 さとみは他に構わず、ルールを説明した。

yassay

13年前

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「例えば、ゆみ、あんた家までどの位?」 「直帰だと~…二時間半位?かなぁ」 「「遠おっ!」」他の二人がツッこんだ。 さとみは更に構わず続ける。 「あんたそれ40分狙いなさい!」 「「「「いやいやいや!ムリっしょ!」」」」再び四人が声を揃えた。 「山田、あんたは?」さとみはお構いなしだ。 「俺は二つ先だけど駅から遠いから40分はかかるぜ…」 「10分切れ」静なる威圧感。 「「「「はぁっ⁉」」」」

真月乃

13年前

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「あのさ…」 かずみが、いつものクールな目つきでさとみに声をかけた。その眼鏡の奥から放たれる眼光はあらゆる人間のハイテンションを一瞬にして凍結させる。まさに冷凍光線だ。 「タイムアタックは無理だと思う。電車やバスは私達を待ってはくれない」 「じゃあ、他に何か有るの?」 さとみが不機嫌そうに反論する。 かずみは少し目を伏せながら 「…な、なるべく楽しく帰る、とか」 もじもじしつつ、そう言った。

minami

13年前

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「いいねえ。わたしさんせー!」 ゆみがのんびりとした口調で言ったのに対してさとみはがしゃんと鞄を地面に投げ付けた。 「ふざけんな!わたしらにちんどん屋みたいにトンテンカンカン練り歩いて帰れって!?そんなことできるわけないでしょ!?一人一人家に帰って最後は一人よ?一人でトンテンカンカン……」 「お前のおめでたい想像力には感服だぜ」 山田はさとみが散らかした鞄の中身を回収しながらため息をついた。

さとう

12年前

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片付いた鞄をひったくるように取り返すと、さとみは大きく息を吐き…再び、目を光らせて顔を上げた。 「そうだ」 「な、なに?」 かずみが不安そうにさとみを見る。 「学校に住むのよ!そしたら帰宅タイムは0秒になるし」 「「「「いやいやいやいや!」」」」 4人は一斉にかぶりを振った。 「名付けて"もう帰宅部"!」 「「「「名付けんでいいから!」」」」 「…あの、もう帰りませんか?」 川崎が一同に言った。

12年前

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「帰る? 簡単に言わないで。これはわたしたちの在り方の根源を問う大事な議論よ?」 さとみが息巻くが、ふと外を見れば街が夕暮れに沈んでいた。空には夜の端っこが見え始めている。 「見て。野球部も片付け始めてる」 「あ、吹奏楽部の音も聞こえなくなってるねえ」 すべての部活動が、今日の活動を終える時間だ。 仕方がない。さとみは渋々頷いた。 「じゃあ、ミーティングはおしまい。そろそろ、部活に励みましょう」

sir-spring

11年前

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「…帰らないの?」 さとみがいう。何故か誰も立ち上がらないからだ。 「えっと…だって、ねぇ?」 ゆみが皆の顔を見渡す。 「何だかんだで楽しかったですし」 川崎が微笑む。 「俺たちいつも帰りながら会話するだろ?こう、輪になって全員が同じことを話す機会ってなかったしさ」 山田は照れ臭そう。 「つまり新鮮だったってことね。夕暮れの学校もいいものね」 かずみの目は優しい。 「じゃあ輪になって帰ろっか!」

ハイリ

11年前

- 完 -