朝、子供の泣き声で目を覚ますが ケータイに目をやると まだ、7時前。もう一度寝ようとすると 奥さんに早く起きて、オムツ替えてあげてよと言われる。
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聞こえないふりをしようかとも思ったが、居候の身、そうもいかない。 「ちょっと聞こえてるんでしょ!」 機嫌を損ねると朝食抜きの可能性がある。 「はい!只今!」 「隣町の猫型ロボットは便利な道具色々持ってるらしいじゃない。あんたも無いの、そういうの?」 「面目ない…」 「あんた、本当に26世紀から来たの?」 僕は苦笑いしながらオムツを交換する。 「はい、これで出来上がりワン!」
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悔しいことに、猫型のあいつよりも、犬型の自分の方が断然従順だ。命令口調で言われると逆らえない。 最初の設定で腹を見せた相手には基本的に絶対服従。 あと、これは極秘にしたいのだが、子どもにも弱い。雄型だと言うのに、どう言うわけか母性本能が強いのだ。何だかんだオムツ交換も楽しんでいる。 便利な道具ねえ…… 別売りで買おうと思えば買えるが、自分は新品のままこの家に送られたため、持ち合わせがない。
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奥さんの名前は碇谷イラ子。シングルマザーで、クロアチア人との間に産んだエイラを育てている。 イラ子さんは身寄り無く、子育てと仕事に苦悩し押し潰され、親子心中を決行してしまう。が、エイラは幸い助かり、僕はこのエイラの子孫からイラ子さんを救う為に送られのだ。 未来道具は無くても、僕には従順且つ癒しのスキルがある。 そう!僕は26世紀の犬型ロボット、のらザえもん! イラ子さんを癒し、幸せにするんだワン!
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…とは言ったものの、僕はこの家に来てからイラ子さんの笑顔を見たことがない。 「ちょっと!ご飯はまだなの?」 怒気を含んだ声が隣の部屋から飛んできた。 「今作ります!」 オムツが替わって上機嫌なエイラにあいつそっくりなぬいぐるみを渡す。これで暫くは大人しいはずだ。 トーストに目玉焼きを乗せてソースをかける。コップに牛乳を注いでテーブルに運んだら終わり。朝ご飯を作るのは簡単だ。
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朝から慌ただしいこの家も、八時に家を出て仕事に向かうことで静かな家へと早変わりする。 しかし、休みなく三箇所の仕事をこなすイラ子さんは本当に凄いと思う。……しかし同時に、そりゃ押しつぶされて心中したくもなるよね、という場面もちらほら見かける。 例えば借金の取り立ての電話を切ったあとの表情ときたら、もう例え用のない可哀想な表情だ。 僕は今夜、ついにそんなイラ子さんの笑顔のため、作戦を実行する!
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僕にはイラ子さんの好きだったらしい物が インプットされてる。 僕は、準備を始めることにした。 イラ子さんの娘の子孫によると 普段笑わないイラ子さんが、懐かしそうに笑みを浮かべる事があるって…たしか? ……? ⁈ な…ないよ! インプットされてるはずじゃないの? ワン~‼ どうする、どうする⁈ 考えろ、のらザえもん! ずっと一階に居るんだ、何かヒントがあるはずだ! ……あ。 あれだ‼きっと…
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僕はとにかく、押入れの中を捜索することにした。イラ子さんが此処に大切にしていたものをしまっていた記憶があるんだ。 それを探し出して、イラ子さんに見せれば、きっと笑顔になってくれるはずだワン! だって、僕の役目はイラ子さんを癒し幸せにすること。 その為に僕はこの家に送られたんだから。 暫らく押入れの中に頭だけを突っ込んで、ごそごそしていると、見慣れない大判の本の様なものと遭遇。 きっと此れだ!
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それは新しい犬型ロボットのカタログだった。 なんてことはなく、古めかしいアルバムだった。写真にはイラ子さんと白人男性のツーショットがたくさん写っている。エイラの写真はない。 僕の電子頭脳は決して優秀ではないけれど、イラ子さんの求めているものがなんとなく分かった。 イラ子さんが帰宅した。 「Heyお帰りハニー。飯にするかい風呂にするかい、それとも俺かい」と僕はダンディに言った。 彼女が噴き出した。
- 完 -