涙が頬を伝う。 顔がくしゃくしゃになって こんな顔見せたくないよ。 なんていうのかな この感じ。 泣いた時にだけ味わう 顔の感覚。 ぎゅうっと歪む顔。 詰まってくる鼻。 途切れ途切れになってくる呼吸。 心を締めつけられる。 ああ… 私は泣いている。
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やだ 行かないで 行かないでよ あなたと出会った場所で私は泣いてる 呼吸が乱れ、嗚咽しながらも 声にならない言葉を叫ぶ 『私を裏切らないで…!』
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それでもあなたは振り向かずに進んで行く。 ああ…もう終わったんだ。 彼は私じゃなくあの子を選んだ。 彼の冷たい背中が改めて現実を私に突きつけてくる。 そうだ。 私は捨てられた。 激しくなる嗚咽と溢れる涙で滲む視界で私は彼の小さくなって行く背中をただじっとみていた。 許さない。 裏切り者。
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裏切った。 裏切った。 愛しさは憎しみへと変わって 絶対、許さない。 復讐を決意したその時、 私は、泣く事をやめた。
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自然と笑みがこぼれる。 好きで好きで苦しかった日々が嘘のよう。 何をすれば、彼は泣くだろう? 何をすれば、彼は苦しむだろう? 何をすれば、彼は許しを乞うだろう? 彼をこの胸で抱き潰したら、どんな顔をするんだろう? そのゆがんだ顔ですら、きっと愛おしい。 あなたがわるいんだから。 いまからあいにいくね? あなたがわるいんだから。 ちゃんとせきにんとってよね?
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あのことあなたがならんであるくそのうしろをずっとついてあるいた。いっていのきょりをたもちふたりがわらいあうそのすがたをかわいたこころでみつめる。どうしてしまおうか。あなたをどうしてしまおうか。あなたのかおがゆがみくるしみなきさけぶそれをみたい。 あのこをけしさればいい。 あなたのだいじなあのこを。
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えきのほーむひとごみのなかでんしゃがくるあなうんすゆっくりとちかづいてくるでんしゃのらいとするどいけいてきのおとやわらかいせなか、 つきおとした。 はっ、と我に返る。 あなたが叫んでいる。 あなたが慟哭している。 あなたが号泣している。 ようやく私は私がしたことを理解した。 恐ろしさで手が震える。 それでも、 あなたの苦しむ顔が愛おしくてたまらない。 もっと、 もっと。
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プァーーーーーーーー〜ッ!!!! 鉄の塊はもうそこまできている。 ねぇいまどんなきもち? たのしい?かなしい? それともうれしい? ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ こたえてよ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ なんでむしするの?わたしをわたしをわたしをアタしをアタアタアタアタアタアタしをミテよ …アアそうだわたしもおなじようにすればミテクれるかもしれないそうだそうすればばぱあぁぁぁぁぁあ
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私は勢いよくホームを蹴って、線路に飛び降りた。 あなたはさっきまで泣き叫んでいたというのに、私の姿をみた瞬間、ピタッと止んだ。 涙に濡れて歪んだ顔で私を見つめている。 そう、私を見ている!! 先ほどまで憎しみで溢れていたのが嘘のようだ。 愛しさと切なさがこみあげてきた。 まだあなたの隣にいたあの時のように。 目から涙が零れ落ちて、電車に轢かれる直前… 「愛してる」 そして私は目を閉じた。
- 完 -