チェーホフの拳銃

「こういう方法も、ある」 フレッドはリボルバーを抜き、弾倉を振り出す。テーブルの上に六つの弾丸が転がった。彼はその一つだけを拾い上げて再び込め、弾倉を回転させながらリボルバーに戻した。 何をやろうとしているかは明らかだ。ここにいるのは六人。誰か一人が『当たり』を引くというわけだ。 他の五人は息を飲んで顔を見合わせる。だが、残された時間はわずかだ。無言を以て、この提案を受け入れる意志を示した。

saøto

12年前

- 1 -

リーダー役のフレッドの提案を聞いて真っ先に、爆破役のマイケルは無言で頷くとテーブルに置かれたリボルバーを手に取った。仲間全員の視線が彼に集まる。 「ガキの頃から、スタートダッシュが得意でね」 そう言うと彼は自身のこめかみに銃口をつきつけた。6分の1の確立だとは分かっていても、引金にかけた指先が震える。それでも愛する家族の為に、逃げ出すという選択肢が彼にはなかった。深呼吸をして、指先に力を込めた…

なつ

12年前

- 2 -

カチッ。 弾は入っていなかった。 周囲に沈黙の空気が流れる。 スタートダッシュが得意と言ったマイケル本人も、引き金を引いた後の彼の手は震えていた。 そんな中、一人平然とした顔をした奴がいた。 頭脳派のジョンである。 「弾倉の回転数から、2発目に入ってないのは分かった。だから、今度は俺がやる」 そう言うと、ジョンは何の躊躇いもなく銃を取り上げ、すぐに引き金を引いた。

hyper

12年前

- 3 -

カチッ。 「ほらな」 軽く肩をすくめて、ジョンは銃を置く。 次に手を出す者は無く、静かな緊張が辺りを満たした…時。 「しょーがないね、オレちゃんいくわ」 交渉役の詐欺師ジェフリーは軽い仕草で銃を取る。もう少し様子見たかったんだけど、などと言いつつこめかみに銃をあてて。 金茶の髪が額にかかり、閉じた目蓋に影を落とす。 「怖いねぇ」 呟きながらも、躊躇うことなく引き金にかけた指に力を込めた。

Hydrangea

12年前

- 4 -

バーン。 大声で戯けたのは道化の新人アルフレッドだった。ジェフリーはびくりとはねて銃を取り落としたが、こいつ、とすぐに笑ってアルフレッドを小突いた。 「まあまあ。次はおいらが貰っちゃうよ」 頭に背中に振り下ろされる拳を交わしつつアルフレッドは銃を拾った。まるでおもちゃでも取り扱うかのように、くるりと銃身を一回転させこめかみに押し当てる。 引き金を引くその瞬間、悪戯な緑の目がぱちりとウインクした。

lalalacco

12年前

- 5 -

糞っ!糞っ!畜生!また外れだ! ここらでっ!誰かがっ!死ねば助かる! この俺が助かるのに! そもそもこんな計画なんぞ興味も無かった!やりたく無かった!善良な一市民でいたかったんだ!俺はただ酒場で酒を飲んでいただけなんだ!なのに奴らは近くにいた俺を計画に巻き込みやがった!目の前のあいつが死んでしまえば良い!居なくなれ、さあ居なくなれ! そんな男の祈りは無慈悲にもカチリという音で掻き消された。

non@me

12年前

- 6 -

冷静になれ! 残りは二人。俺とフレッドだ。 ここはリーダーのフレッドが先にするべきじゃないか?リーダーは1番最初か1番最後と相場は決まっているが、そんなこと言っている場合ではない。 もし次に弾丸が入っていたら?冗談じゃない!俺は死にたくない。 やはりフレッドが先だ。弾丸が入ってなければ俺は辞退すればいい。そうすれば死なずにすむ。しかし入っていればフレッドは、死ぬ。

ハイリ

12年前

- 7 -

「分かった。では君の言う通り、先に引き金を引いてやろう」 フレッドはニヤリと笑うと立ち上がり、銃を手に取ってこめかみに当てた。 「そうさ、それで良いんだ。‥分かってるじゃないか」 一つ フレッドは目を見開く。 「一つだけ、約束してくれるな」 「お、おう。なんだよ、なんでも良いから早く引き金を引いてくれ」 「俺が死んでも死ななくても、貴様は引き金を引け」 フレッドは目を閉じた。 バンッ

- 8 -

"チェーホフも言ったろう? ノベルに拳銃が登場したとき、それは必ず発砲されるべきなのだと" フレッドが血吹雪をあげてテーブルの上に倒れた。 「さあ、フレッドとの約束を守るんだ」 ジョンが言う。 俺は歓喜を抱いて、安全ピンを外すと、トリガーに手をかけた。 「これはとある人物を体よく葬るための作戦でね」 血糊を手にしたフレッドが起きあがる。ニヤニヤする顔を横目に、俺の指は止まらない。

aoto

12年前

- 完 -