いい子の約束
僕のパパは去年の冬に長い長い旅に出たんだってママが言う。
いつ帰ってくるの?って聞いたら、
「そうねえ、あなたがいい子にしてたら、帰ってくるかしら」
ってちっちゃく笑って呟くから、僕はそれ以来ものすごくいい子になった。
好き嫌いはしない。
お勉強もちゃんとする。
片付けもママのお手伝いも、自分から進んでやってる。
だから、そろそろ帰ってきてよ、パパ。
僕、ちゃんといい子だよ。
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僕、ちゃんといい子なのに。
なのに、パパは帰ってきてくれない。
だからママに聞いたんだ。
パパはどこにいるの?って、
そしたらママは一瞬まぶたをぎゅっと閉じて、微笑みながら言ったんだ。
「あなたはとってもいい子よ。だけど、パパはずっとずっと遠いところでお仕事頑張ってるの。もうちょっと待とうね」
僕は、パパ頑張れっ、て気持ちになった。
大きな文字で「ありがとう」って手紙を書いた。
- 2 -
二つ折りした端っこにお気に入りの恐竜のシールを貼った。
プテラノドン、かっこいいなあ。
学校帰り、お花屋さんの角の赤いポストを目指す。
ん、手が届かない。
あともうちょっとなんだけどなあ…
ママにお願いすることだってできたけど、僕はそうしなかった。
ねえパパ、僕が大きくなったら、背の順で後ろから3番目、ううん、一番後ろになったらお手紙送るからね。
そうしたら…会えるよね、パパ?
- 3 -
「どうしたんだボウズ、それポストに入れるのか?おっちゃんが手伝ってやるよ!」
僕はおっちゃんに抱えられた。
「どうした?手紙入れないのか?」
僕はコクリと頷いた。
おっちゃんは不思議そうな顔で僕を見て、少ししてニコッと笑って「そうか!」って言って僕を降ろした。
「ボウズ、飯一杯食ってでっかくなれよ!」そう言っておっちゃんは僕の頭をポンポンと撫でていなくなった。
僕は手をギュッと握り締めた。
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家に帰ってからちゃんと手をあらってうがいをした。冷蔵庫から苦手な牛乳をコップ三杯飲んだ。
牛乳飲んだら背が伸びるって、パパが言ってたから。
ご飯も嫌いなピーマンもにんじんもがんばって食べる。
いい子にしていても、パパは帰らない。
僕の背が伸びて、一番後ろになった頃。
僕はほんとうのことを知った。
パパは、病院で病気とたたかってるんだって。おばあちゃんが教えてくれた。
- 5 -
「いい子にしてたら、パパの病気治る?」
僕の質問におばあちゃんはこう言ってくれた。
「もちろんさ。『パパの病気は絶対治る』っていい子でいれば、きっと治るよ」
「うん。僕、信じるよ!」
お勉強も頑張った。
お手伝いも頑張った。
好き嫌いしないで食べた。
そして僕は、大学の医学科に入った。
パパや、子供を持っている病気の人を治したいと思ったから。
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僕がいい子にして、パパの病気が治せれば、きっと帰ってきてくれるはずだから。
「お前……あんときのボウズか?」
ポストの背をぐんと追いこした僕に、おじさんが声をかけてきた。手紙を入れようとしてた僕を、助けてくれたあのおじさんだった。
「大きくなったなぁボウズ」
そう言っておじさんは僕の頭をポンポンと撫でた。
「……おっちゃんの子供も、生きてればボウズと同じ位だったんだがな……」
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背は追い抜いてもまだまだ僕を子供扱いしてくれるおじさんは、面映ゆい感情を目尻に溜め、何時ぞやよりも静かに笑ってみせる。
「病気なんておっちゃんがなれば良かったのに…親不孝な息子だよ、まったく」
そんなおじさんを見て、僕の胸はつきんと震えた。
「ボウズはいい子でいるんだぞ?親の願いはそれだけだ」
子供が健康でさえいれば、それだけで強くいられる。恐竜くらい元気でいろよ。
おじさんに言われた。
- 8 -
いい子かどうかは分からないが、僕は更に歳を経て、パパは帰ってこなかった。
それもそのはず、ずっと昔からパパには会えなかったのだから。
でもそれでいいのだ。会いに来ないなら、会いに行けばいい。だからそれまでは『帰り』を待つ人のために働こう。
「パパ、いってらっしゃい」
「いってくるよ、いい子にな?」
「うん!」
澄みきった純粋な瞳、彼は笑顔で頷く。
いい子も何もない、僕はここに帰ろう。
- 完 -
作品情報
いい子の約束
#13289
- リレー期間
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2年7ヶ月