「解放して下さい」 「意味わからん。じゃあお前なんでここにいるんだよ」 「ですから興味本位で来たと言ってるじゃないですか…」 「その理屈はな、お前がモンスターなら分かるんだ…」 「偏見はいけませんよ」 「ちげーよ動揺だよこれは!なんで妖怪がここに!俺の!家にいんだよ!!」 対面する二つの影。 仁王立ちする吸血鬼と、縛られ正座させられた九尾。 暗い森の洋館に吸血鬼の叫びが響き渡った。
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昔からこの辺りは「モンスター」と「妖怪」とが混じり合う言わば国境線として知られていた。 この地域では二つの種族はそれなりに仲良くやって来たのだが、それぞれの管轄の真ん中に住む上級怪異達は互いに睨み合っている。 そんな中、洋館がこの国境上にモンスターの集会所として造られた。これでうっかり妖怪が迷い込んで来たなら、民族抗争待ったなしだろう。 吸血鬼は常日頃から思っていた。 お上の奴ら阿呆だろ、と。
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やるせない中間管理職の身の上に吸血鬼は肩を震わせた。これは起こるべくして起こった事件なのだ。 彼はこの集会所で住み込みの管理人をしている。使用時間の管理、経費の計上、清掃手配。たとえそれがモンスターの世あっても、社会があれば事務仕事はつきまとうのだ。 もちろん警備は徹底的にと頼んであったのに…。 「お前、どうやって潜りこんだ?」 目の前の九尾は反省の色も見えず、物珍しげに館の中を見回している。
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「潜りこんだって失礼じゃないですか。ちゃんと玄関から入ってきましたよ」 「んな訳あるか!鍵も無いのにどうやって入ってたんだよ!」 「あーそれなら、ほら」 そう言って九尾は懐から鍵を出した。 「ちゃんと合鍵作ってますから、御心配なく」 「意味わかんねーよ‼︎大体、警備が通す訳ねーだろ!」 「え?入口で寝てたおじいさんの事ですか?」 それを聞いた吸血鬼は愕然とした。 「…あのジジイ、クビだな…」
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「それはともかく」 役に立たない警備への憤りと、今後の然るべき対応の算段をしていた思考を九尾が遮る。 「お腹空きました。なんか食べさせてください」 「突然何言い出してんの?」 「ただし、美味なもの限定で!」 ビシッと指を突き立てる九尾。 「いやだから、不審者のくせになんで偉そうに飯をたかるの?」 吸血鬼が理不尽な要望を突っぱねようとするも聞く耳持たず。 「もしかして貴方料理できないんでしょ?」
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「なんでそうなるんだ!俺は友人にしか料理を振る舞わないだけだ。まあ友人にとっては俺の手料理は美味しいみたいだがな」 「それなら貴方の友人になるので美味しい料理を作って下さい」 「侵入者と友達になるわけないだろ!それに食材は友人がいつも持参して来るから、血液以外は家に置いてない」 「だったら食材を調達してくれば良いじゃないですか」 二人が押し問答をしているとコンコンと玄関の方からノックの音がした。
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