詩と時と私
初秋に空目だった
蒼穹をひとつの碧雲が渡ろうとしている様に見えた
次の日も
秋の雲に見た空目だった
日替わりの空模様に
空っぽ過ぎる穴を日本海から
東の風が吹き抜ける
ハッとして穴を塞いで
この季節海峡の渡り鳥は自分だと思い
葉月色に焦げ付く様に確かめる
秋虫のオーケストラが名月を唄えば
空蝉の紡いだものを知れた
起承転結と春夏秋冬
それが上手く重なる瞬間の
空目だった
詩と秋と私
- 1 -
突き抜けるような青さに
眩暈を覚えて足を止める
咽せるような空気は
どこかで小さく震えて熱を持った
灼かれたアスファルトに
揺らめく影と光の境界線
陽炎の中でいつかの風景が揺らいだら
目蓋に映して連れて行く
抱きしめるようにして目蓋を閉じた空蝉に
惜しむように止まない哀歌が降り注ぐ
呼び合うようにして
聞こえた合図
空が音をたててなだれ込んだら
この目に映して連れて行く
詩と夏と私
- 2 -
撫子色が髪を掬った
風がうつらうつらと遊んでいると
湖面の花は唄い出す
心地よい目眩に儚げな高揚感を添えて
その空気でさえ酔いしれた
肺にいれた想いをゆっくり吐くと
別れの唄に変わっていき
見えない言葉は羽を広げて
遥か頭上の青へ羽ばたいていく
目に見えずとも見えていた
いつかは抱きしめた大切な言葉
両手に残らぬよう飛ばそう
哀しい唄にしないよう
この刻にだけ留めておいて
詩と春と私
- 3 -
世界を染め抜く夜の群青
それにあらがう街の灯の僅かなオレンジ
高く厚くたなびく雲
名前も知らない三つ星
出でたばかりの下弦の月
川は水面に全てを揺らす
時雨はあまりにもひんやりとしていて
遠くの樹は独り哀唄を哭く
川向こうのポンプ場の
白い四角のかたちに静かに焦がれて
青いつめたさに包まれて震える世界を
瞼の裏に閉じ込めて
2月は眠りにつく
詩と冬と私
- 4 -
四季は移り変わり
空は季節の青を彩る
朝焼けの時間は季節ごとに人を悩ませ
夕焼けの時間は夜の長さを推し量る
求めるのは朝焼け
求めるのは暖かな日差しの青空
求めるのは夕闇のグラデーション
求めるのは秋の夜長の誰かとの秘密の時間
それぞれの四季に振る雨に
優美な名前がつけられた
あなたの好きな雨はどれ?
詩と四季と私
- 5 -
触れられない君を想う日も
君と言葉を交わした日も
同じ表情で空は明けた
まるでそれが一番の
平和と言うように
紫色の花が開く
現に戻りし夢鳥が
上を向いて歌うのを
私の姿に重ねて遊んだ
陽は誰が為に射すものか
青い水平線の彼方に向かい
黄金の衣擦れの音がする
君はもうそこにいない
私の核の残骸だけが
真白いシーツの上
詩と朝と私
- 6 -
壜の底の脂曇り
指紋の溝にはすり潰されたクローバー
空は高いが風はない
影が一点に凝縮し
私の犬歯は氷砂糖を噛み砕く
サンシャイン礼讃
草臥れた残響音
氷砂糖を噛み砕くときのひんやりしたかなしみ
誤魔化せない痛みは悔いになり
何でもない日々の繰り返しが私たちを汚染した
半透明の月
清廉な庭
空は高いが風はない
詩と昼と私
- 7 -
幕を閉じて心に溺れる
最後の天上の光だけが私を照らしていた
光輝の筋が醒めぬよう
更に思想を深めては
眠りよりも深い領域を旅する
風雅と優美に手を添え
在りし孤独に答えを探して
夢に終わりを見つけたなら
二度目の夢の岸へと
永遠なる永久
世界が羽を休める
離別と邂逅の極地にて
詩と夜と私
- 8 -
微睡みに陰る私を撫でて
日と星と月と照り瞬き欠ける
光芒に浸された私の身体は
天体と大地と巡り傾く
天の定めは私の宿命
心躍るは変化と返還
唄う野犬に嗤う花
螺旋が貫く宇宙に影差す
一周回って此処は何処?
私は刻む
私を刻む
私が刻む
私に刻む
伽藍堂に充ち満ちて
彼岸の羽根はエーテルを捉う
行きて帰りし彼の者は私を連れて其処に居る
詩と一日と私
- 完 -
作品情報
詩と時と私
#17836
- リレー期間
-
1年