目の上の砂糖菓子

俺は神田秋。大手企業の社長の父のおかげで生活に困らず成績優秀で身体能力も兼ね備えた完璧な人間だ。いや、完璧でなくてはならない。全てにおいて。それは父の躾がスパルタのような厳しさで、俺は幼少期から父の言付けは絶対と学んでいたからだ。父は異常な程完璧主義者であり、自分の育て上げた完璧な息子が自慢だった。しかし、国内トップレベルの光高校に入学した俺は、その完璧が崩れるような衝撃的な出会いをしたのだった。

若槻木憶

12年前

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担任が教壇に立って話す。 「え〜今日から光高校二年A組に新しい仲間がやってくるぞ!ああ、女子だ。女子。そこの男子!楽しみなのは分かるが興奮しすぎだぞ!」あははは… 馬鹿らしい…猿のように喚きやがって… 一年のとき学年一位。全国模試でも上位に入った俺にとって、転校生の女子ごときで興奮している彼らは下に見えて仕方なかった。まあ彼らも勉強はできるが。 教室のドアが開いた。 俺に衝撃が走った。

テリー

12年前

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「はじめまして相原のりかです」 ぺこりとお辞儀した少女はどう見ても小学生にしか見えない。 クラスがざわめく。 「静かに 相原は十一歳だ 飛び級制度で我が校に転入してきたみんなよろしくな」 担任の説明にざわめきが増す。 「青木の横が空いてるな ついでに面倒も見てやってくれ 頭脳は高校生でも他は小学生だからな」 俺はロリ趣味はないという間もなく少女は俺のそばに来て丁寧にまたお辞儀をした。

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「よろしくお願いします」 幼さの残る表情をこちらに向け、また次の人へと挨拶していった。 こいつが俺たちと同じ学力……あり得ない。 神田は、自分が今まで頑張ってきたことが無下にされた気がして苛々していた。 そうして全ての人に挨拶し終わった時、相原が先生の元に駆け寄りこんなことを言い出した。 「先生、私視力が悪いのであの席が良いのですが……」 そう言い指差したのは、俺の隣の空席だった。

Swan

12年前

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少しの沈黙の後、担任は苦い顔で俺に言った。 「神田、青木と席替わってくれるか」 「え、なんで」 「お前、相原の面倒を見る気なんてないだろう」 図星だ。しかし青木の席は教室のど真ん中。俺の最も嫌いな場所にある。 「俺も最近、視力が…」 「そうか。じゃあ相原を頼むぞ。相原、分からない事があれば何でも神田に聞け」 「はい。神田くん、よろしくね」 神田…くん? そう呼んじゃう? このガキ…!

hayayacco

12年前

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「よ、よろしく」 ちょっと待ってくれよ。明らかに異質だろう。イルカの群れにトビウオが一匹混じっているようなものだ。 それから始まった授業は自分の教科書を二人で共有しながら授業を受けるというもので、気づくと俺はやけに気を遣っていた。 相原の衝撃──年端もいかないのに俺らと頭の良さが同程度であることに俺は胸中穏やかではなくて、相原を自分のプライドをおびやかす存在だと思っている? 否、ありえない。

11年前

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仮に彼女が天才であったとして、それは彼女の一つの要素だ。俺は大企業の社長息子。スポーツ万能であり、イケメンであり、向かうところ敵なしであるはずだ。 授業中は相原に教科書を貸すという紳士の余裕を見せつつ、放課後は優しく校内案内もしてさしあげた。そして相原の尊敬の眼差し。これ以上ないくらいに俺は完璧だ。 ...妄想だけは完璧だった。

かかもぬ

10年前

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内実は悔しいほど伴わない。 現実一致を導く精神コントロールは父直伝で、今まで幾度となく実践してきた。 年下相手に恙ない行動を見せつけるスキルは、十二分にあるはずなのに……俺の心と体はいつ別々になったんだ? そう言及したくなるほど、スマートとは程遠い低俗状態に支配される。なに動揺してんだ、俺! 「教科書ありがとうございました。明日からは神田くんに借りなくとも大丈夫そうです」 「あ、そ、そう?」

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3週間が経った。 「これはですね…」 勉強の質問は俺に来ていたのに、気づけばみんな彼女の元へ行くようになった。彼女は特別だった。そんな彼女が正直俺には目障りだった。 放課後、本を借り教室に戻ると彼女が一人でいた。 「キットノリカナラ友達デキルヨ…」 見るとうさぎのぬいぐるみを持って、こちょこちょ動かしている。 なんだ。少し笑ってしまいそうになる。俺は言った。 「明日から一緒に勉強しようぜ」

ノナメ

8年前

- 完 -