狂愛

優汰先輩…。 私は絶対誰よりも先輩の事が大好きです。 まだあどけなさが残ってた、ちょっぴりダサかった頃の先輩も、大人っぽくなってかっこよくなった先輩も。 今は先輩、かっこよくなってモテモテじゃん。笑 昔からは想像できないよ 私はみんなが先輩の事好きになるずっとずっとずーっと前から大好きだったんだよ?

優saku

12年前

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留守電を聞いて優汰はぞっとした。 「誰だこいつ…」 声に聞き覚えはなかった。それに、こんなストーカーまがいのことをする友達なんていないはず。 「…掛け直してみるか」 気持ち悪いことこの上なかったが、優汰はこういうのをほっとけない性格だった。 「…もしもし」 相手はすぐに電話に出た。留守電と同じ、こもった女の声。 「お前誰だよ」 動揺を悟られないように、優汰は少し強めの口調で切り出した。

こぼね

12年前

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「何とぼけてるの先輩?私は私だよ?」 声の質で分かる。遠く離れた何処かから、見えない自分を一心に見つめている様が電話線越しに伝わってる。なんだか首筋に粘っこい汗が吹き出してきた。 だが、負けてはいられない。変化球で勝負だ。 「あ〜、はいはい!君ね。えーと確か、高2になった時の自己紹介で、『私の好きな食べ物は、いなり寿司です』って言い放って男子の爆笑を誘ったっていう、シヅ江ちゃんでしょ?」

ヤトリ

12年前

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「…違います」 女の声には涙がにじんでいた。 「覚えてない…の…?」 そんな悲しそうな声で言われたら、覚えてないのがかわいそうになってきた。 「ごめんね、えっと…名前教えてくれる?」 優汰はなんとか思い出そうと必死だった。 「高校で同じ部活だった…」 女が名乗った。

12年前

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「山岸理香…です」 彼女はそう答えた。 山岸理香?そんな名前聞いたことがない。 全く記憶にない。 何て言おう。本当の事を言うべきなのか? 何て返せばいいんだ? でも彼女が嘘をついている可能性もなくはない。だって全く記憶にないんだから。いくら俺でも部活仲間の名前は忘れない。 「ごめん、記憶にない。」 ハッキリと彼女に言った。 すると 「ふふまだ記憶思い出せないんだ?ふふふうふふふ

夢亞☃

12年前

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彼女の態度が一変した。 なんだこいつ、まじで気持ち悪い。 泣きそうな声の後には笑い声かよ。 鳥肌がたった。 「記憶にないね。」 動揺を悟られまいと思わず姿勢を正した。 「迷惑だからこういう電話しないでくれ。それを言おうと思って連絡しただけだから。」 じゃ。といって電話を一方的に切ろうとした、その時に彼女は言った。

Ami

11年前

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「5月29日」 それを聞いた途端に俺は凍りつく。その日は、彼女の死んだ日だ。確か名前は……そうだ─── 「神崎奏……」 俺は呟いていた。誰にも聞こえないほど小さな声で。しかし電話ならば、その声ははっきり聞こえてしまう。 「うふふふ、やっと思い出してくれた。覚えていてくれたんですね、優太先輩」 ねっとりとした声が電話から聞こえてくる。確かに声も神崎のものだ。だけど神崎はもう、死んだんじゃないのか?

カサヤ

11年前

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死んだ人間が電話をかけられるはずがない。神崎の身内?友達か?誰だ? いや、誰だろうとこの電話の向こうにいるのは『神崎奏』だ。 神崎の名前と一緒に思い出したことがある。 「あの日手紙、くれたな」 同じ日、神崎は事故で死んだ。自殺の線もあるらしいと聞いて、なんか怖くて手紙はどこかにしまいこんだままだった。 「先輩、私を覚えていて」 電話の向こうの声が震えていた。 「結婚しても、私を忘れないで」

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そこで、電話は切れた。 気づけば、俺は何かに取り憑かれたように手紙を探し出していた。 見てはいけない、 しかし、見なければならない。 そんな脅迫観念に襲われながら、恐る恐る手紙を開いた。 そこには、たった1行だけ綴られていた。 「これで優汰先輩にずっと覚えてもらえる。」 手紙は俺の手をすり抜けて床に落ちていった。

yuni

10年前

- 完 -