不眠な私と秘密のホットミルク

眠れない これが最近の私の悩みだ 夜になって目をつぶっても 眠りにつかないのだ これは、由々しき事態だ

ゆき

9年前

- 1 -

じゃあひつじの数でも数えるか…… ひつじが一匹……ひつじが二匹…… いやいや、これで眠れる人いないだろ! 私は眠るとき何を考えればいいんだ? 仕事……趣味……恋愛…… そんなの考えれない 私には仕事がない……働いていないのだ。 趣味もしたいこともない。 好きな人なんて考えたことすらない…… 何か考えないと眠りにつけない気がする。 そう考えたら私はもう眠れないのか……?

Ross Holt

9年前

- 2 -

──眠る前にホットミルクを飲むと良いのよ。何も入れずにね。 小さい頃、夜中に目が覚めた私に母はそう言ってホットミルクを入れてくれた。なぜだかよく眠れたっけ。 気になったから台所へ。 何も入れないと言っていたが、私は母がミルクによく眠れる「何か」を入れたのではないかと常々思っていた。けれど、その「何か」が何なのか未だに分からない。 実家に帰れないのだ。無職の私が母の優しさに甘えるのは許されない。

- 3 -

──私が思い描いていた今の歳のわたしは、 仕事をこなしたあと、いい人と出会い家庭に入って育児に奮闘している。 そんなわたしだった。でもそんな理想とは裏腹。 今の私は無職で男もいない。 あぁ、あのミルク。何が入ってたんだろう…。

chi-

8年前

- 4 -

もしかして睡眠薬かしら。 なんて、答えなんてわからないの、結局。 このまま一週間くらい寝付けずに毎日過ごしたら、死んだように眠れるんじゃない? 母の温もり、ミルクの温かさ、どっちも同じに感じてまたホットミルクを作ってみた。 美味しかった、温かかった。 でも、そこに愛はなかった。 まだ眠れない。 気だるい体を何とか起こして、私はようやく外に出る準備を始めた。

futa

7年前

- 5 -

くたくたのパジャマを脱いで、ふわふわのニットを被りあたたかいフラノのズボンに足を通す。 ——母がミルクに入れていたあたたかい何か。 私が作ったホットミルクに足りない何か。 私の人生に足りない何か…。 もしそんなものが見つけられるなら、と、 私は醒めきらぬ気持ちのまま、ぼんやりと外に出た。

Lillian.

6年前

- 6 -

外は雪が舞っていて身震いがした。 冷たい風がひゅうっと私の身体を通り抜けた。 クリーニングの袋の付いたままになっていたコートを引っ張り出して羽織ると少し痩せたのだろうか、袖の部分が緩く感じた。 石油のにおいがした。石油ストーブに手をかざしたときの暖かさと、ストーブの前の場所を取りあう喧嘩の思い出が同時に蘇る。 「そういえば、最近ろくなもの食べてないな…」 財布の中からちゃりんと音がする。

みみぃ

6年前

- 7 -

財布の中には小銭が申し訳程度に入ってただけだった。 「はあ‥」私の吐いたため息は夜の空に消えた。 これからどうしよう、そんな行き場のない思いが頭の中で繰り返される。 やっぱり‥ 私は少し考えてからポケットから携帯を取り出して電話を掛けた。 掛かるまでの間に何を話せばいいかと嫌でも考えてしまう‥ トゥルルルルルッ 「‥もしもし?」

深夜

6年前

- 8 -

こんな時間だから怪訝な声の母。 「お母さん……」 とだけしか言えなくて、次の言葉が見つからない。 「どした? なんかあったんか?」 と心配そう。 「特に……なんかはないけどね……眠れなくてね……ここ数日ずっとなんだ」 自分でも事実を確認するように少しずつ言葉を吐いた。 「温ったかけぇ〜ミルクを飲みに帰って来ねぇ〜か?」 「ミルクに何入れるかだけ教えてよ」 それは秘密と母が言い、私は帰る決心をした。

- 完 -