未完ノベル #3425
『三日月にふる雪』
保母さんが読み聞かせてくれた絵本の中にその一冊はあった。
普段重なり合わない二つのものが出会ったときの美しさを、一年草の視点から描いた物語だった。
ボヤケた色彩で綴られた絵と平易な言葉は、移ろいいく幼心を確実に射止めていた。そのとき、同じ場所に居合わせた子たちが、今の友人となった彼女たちでもあった。
あの日、記念設立されたお花畑の前で紫と杏はけんかをしていた。
- 1 -
「だから、杏ちゃんは、ダメ!」
よくわからない理由で、紫から花畑に入るのを拒まれた。拒まれたのは杏なのに、紫は大声で泣いて皆の注目を集める。
杏は、唇を噛みしめる。
先生が飛んで来て、紫を宥める。紫は言葉巧みに、喧嘩を杏のせいにする。
うまく言えず、悔しい。
ただ皆と花畑で遊びたいだけなのに。
先生は皆を先に花畑に通すと、杏だけをその場に残した。
「杏ちゃん、少し先生とお話ししようね」
- 2 -
「杏ちゃん、紫ちゃんに謝ろうね」先生は強めの口調で諭す。
「わかりました」杏は仕方なく頷いた。
「紫ちゃん、ごめんね」
「あやまっても、ダメなのよ」紫は頑なに拒む。
杏と紫は、普段一緒に遊ばない。だからか、紫は杏を排除したがっていた。
先生がなんとなく状況を察したらしい。先生は杏に同情の目を向けてから、かばんをあさり始めた。
「みんな、こっちへ来て。これから『三日月にふる雪』を読むよ」
- 3 -
「月は、よるのせかいに、なくてはならないものでした。
アクマの、にがてなものが、月のひかりだったからです。
月がなくなると、せかいは、まっくらやみ。
なにも、みえません。
どこからともなく、アクマがあつまってきて、わるさをします。
そして、よがあけると、かならず、こどもがひとり、いなくなっているのでした。
つれさられたこどもたちは、どこへ、つれていかれたのでしょうか。
- 4 -
と、そこまで読むと先生は喋り出す。
『みんなは、どこに行ったと思う?』
『ほいくえん!』
『おうち!』
『うちゅう!』
『おひめさまたすけに!』
『まおうとたたかいに!』
と口々にみんな言う。
杏は、他の子よりさめてる。
さめてるってよく言われる。
意味?意味なんて知らないよ。
『つき』
杏はつぶやいた。
誰にも聞こえないような小さな小さな声で。
- 5 -
「……おつきさま」
そう呟いたのは、紫だった。
「どうしてそう思うの、紫ちゃん」
紫は泣きはらした目でスカートを握りしめ、先生を見上げるばかり。
「うまく言えないかな? じゃあみんな、こども達がどこに行ったのか想像しながらきいてね。続きを読んでいくよ」
絵本には、こども達がどこへ行ったのかは書かれていない。雪が降る三日月の夜、こども達が現れてアクマを雪に変えてしまうのだ。
- 6 -